2月3日 月曜日 1

 今日は、朝から尊と美里・峻・真二・碧が来た。俺が居ない間、何回も来ていたのだろう・・・
 「純平、何処に行っていた!」
いきなり、尊が怒鳴った。
 「電話しても出ないし、携帯は電源入ってないし、心配したのよ。何度ここへ来たか」
 「悪い、ルカを連れて、ドライブにっていたんだ。まあ、座れよ」
 「ドライブ?」
 「ああ、車無かったろう」
俺はクッションに座った。
 「そう言えば・・・・・」
 「なんだ、気がつかなかったか?」
 「お前なー」
尊が、俺の胸倉を掴んだ。
 「まあ、待てよ、尊。純平の奴、何か吹っ切れたみたいだぜ」
真二が、弁護士らしい観察眼で言った。
 「吹っ切れたわけじゃないさ。ただ・・・」
 「ただ、何なんだよ」
尊が、胸倉を掴んだまま詰問する。
 「ルカの残したメッセージが少しだけ解った気がするんだ」
 「メッセージ?」
 「ああ。ルカ、最後に俺に言ったんだ。あの朝、目覚めてはっきりと言った事がふたつある」
 「何だって?」
 「許してってな」
 「許して?」
 「ああ、お父様を許して・・・・ただ、これは許そうにも許せない問題だがな・・・」
 「それから?」
 「そして、俺がルカに話してやった星の事を言った。楽しかったと・・・。俺にそう言う仕事すれば良いと。俺は、ドライブしている間、夜になると星の話を聞かせていたんだ」
 俺は、尊の手を解くとキッチンへ行き、珈琲を淹れた。
 「俺の珈琲、飲んでくれよ。まだ、飲ませたこと無かったろう。ルカが好きだったんだ。俺の淹れた珈琲」
 「珈琲と星の話が、どう関係するんだ?」
尊がキッチンまで来て言った。
 「まあ、急かすなよ・・・・・・」
俺は、珈琲をゆっくりと淹れた。部屋には、珈琲の芳香が漂いはじめた。
 「良い香りね」
美里が、一番先に言った。
 「ありがとう。さあ、どうぞ。冷めないうちに」
俺は、みんなに注いだ珈琲を配った。
 「確かに良い香りだ」
 「ああ」
俺は、みんなが珈琲を飲むのを待つと、窓際へ行き独り言のように言った。
 「俺・・・天文台に勤めようと思うんだ」
 「何?」
 「え?」
驚きの表情が返って来た。
 「確か、うちの大学の高村教授が、フランスの天文台にいる筈なんだ。そこを訪ねてみようと思う」
 「本気か?」
 「ああ、本気だ」
俺はみんなの方を振り返って言った。
 「そこじゃなくても、高村教授に紹介してもらえたらと思っているよ」
 「でも、大学を卒業して何年経っていると思っているの?」
 「解っているさ、言われなくても。正式な天文学員じゃなくて良いんだ。兎に角星の見える所で働ければ。それがルカの最後の想いなら、俺は叶えたいと思う」
 「だったら、何もわざわざフランスまで行かなくても・・・・・」
 「高村教授の講義は面白かったし、あの人の天文に対する考え方が、俺は好きで、気に入っているんだ。だから・・・出来れば、高村教の側で仕事がしたい」
暫く沈黙が続いた。
 「まあ、止めても純平は聞かないでしょうから、行きなさいよ。フランスでも宇宙でも、あんたが好きな所へ」
美里がお手上げのポーズを取り言った。
 「で、お前、この部屋どうするんだ?誰かに貸すのか?」
碧が聞いた。
 「いや、誰にも貸す気はない。ルカと俺の部屋だ。他所の奴に貸す気は全くないよ。まあ、美里が住むって言うなら話は別だがな」
 「私?」
 「ああ、お前だ。あとは、恭一さんかな。それ以外の人には貸したくないよ」
 「気持ちは解るけど・・・・・」
 「純平、俺、お前の珈琲初めて飲んで思ったんだけど、何も天文台に行かなくても、天文の話は出来るんじゃないかな・・・・・純平、お前、珈琲ショップやらないか?」
いきなり真二が言った。
 「実は、一軒珈琲ショップが競売にかけられているんだ。そこで、珈琲淹れながら、天文の話したって良いんじゃないかな。そうしたら、ここに住んだって良いわけだろう」
 「良いな、それ、俺もお前の淹れた珈琲を飲みに来たいよ。仕事の帰りとかに寄らせてもらうよ」
峻も同調した。俺は、みんなを見渡すと、ゆっくりと言った。
 「気持ちはありがたいけど、今、俺ここに住み続けるのは、まだ正直辛いんだ。暫く離れていたい気分なんだ。それに、俺の珈琲は趣味だから良いんだ。飲みたいときは言ってくれよ。いつでも淹れるから、もう出し惜しみはしないよ」
 「そうか・・・・・仕方ないか」
 「でも、その珈琲ショップ、競り落としておくだけでも良いんでしょう?」
何処へでも行けと言った美里が、心残りだとばかりに突然言った。
 「まあな。買っておけばこっちのものだから、どう使おうと構わないよ」
 「なら、純平がその気になるまで、置いておけば?」
 「美里、俺の気持ちが変わるのは、いつになるか解らないぜ」
 「大丈夫よ。純平の事だもの。淋しくなってすぐ、私たちのところに帰って来るわよ」
 「あのな、美里、俺はそんなお子ちゃまじゃないぞ」
苦笑いをした時、それまで黙っていた尊が、
 「珈琲ショップったって、それなりに大変だぜ。仕入れやら在庫や・・・生半可じゃやれない。商売は、趣味じゃないんだ。美里、勝手な事言うなよ」
と怒ったように言った。
 「あら、私だって、宝石店のオーナーよ。それなりに商売の事は解るつもりだわ」
 「美里、お前には、なんだかんだ言って西園寺家と言う後ろ盾があったからやって来られているんだ。何もない所から始めるのは、並大抵じゃない。俺だって、親父の基盤があるから、あの場所でやっていられる。それがなかったらやっては行かれないよ」
 「それは・・・・」
 「尊、良いよ。美里だってみんなだって、俺を思って言ってくれているんだから。あんまり熱くなるなよ」
 「ああ、俺もそれは解るよ」
 「俺たちが、ここで言い争ってもルカは喜ばない。もう、俺の事で熱くならないでくれ。頼むよ。俺は、もうフランスに行くことにしたんだから。後は出たとこ勝負。大学の高村ゼミの連中に当たってみるよ」
 「解った。頑張れよ」
尊がため息混じりに言った。
 「ああ」
俺は尊の肩を叩いた。そして、
 「美里、気持ちはありがたいけれど、俺にはその気はない。悪いな」
と言った。
 「純平が、元気ならそれで良いわ。でも、今度いなくなる時は、ちゃんと行き先を言ってよね」
 「判った。ああ、そうだ、みあげを買いすぎているんだ。持って行ってくれよ。頼む」
俺は、買ってきた食べ物や飲み物を広げた。
 「これ、全部?」
 「ああ、ルカが好きだったものとかを買っていたらこんなになった」
 「全く、限度を知らないわね」
 「まあ、良いじゃないか。お、これ良いな。俺、このカラスミ貰ってゆくよ。酒のつまみに良い」
峻は、酒好きらしく言った。
 「じゃあ、私はこのワインを頂くわ。今度、店のパーティーがあるの」
 「良いよ、持って行って」
俺は、あらかたみんなに持たせた。
峻が帰りがけ、
 「明日から、裁判が始まる。傍聴に来いよ。時間は、13時からだ。ここにいるみんなも行くからな。お前も証人で呼ばれているだろう」
 「ああ、行く」
 「じゃあ、明日」
 「ああ、明日な」
 みんなは、裁判の事も気になって来てくれたようだった。俺は、そんな気持ちが嬉しかった。こいつらと離れるのは確かに淋しい気もする。美里が言うように、淋しくてすぐ日本に帰ってきてしまうかもしれない。だが、今は自分の決めた道を歩んでみようと思っていた。
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by karura1204 | 2004-12-01 00:05 | エピローグ
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