1月6日 月曜日 1

 「今日、会社に届けを出しておくよ。今月中には保健証とか出来てくると思う。もし、何か言われたら、この番号を言って事情を説明して」
 「解ったわ」
 「じゃ、行ってくるね」
 「いってらっしゃい」

 新年最初の出社日。俺は、会社に結婚した事と妊娠した事を告げ、手続きを総務に依頼した。やがて、年頭の社長挨拶が始まった。そこへ、蛭田常務と家田統括部長が俺の所へ青い顔をしてやってきた。
 「佐藤君」
 「おめでとうございます。本年も・・・・」
 「挨拶は良い、それより大変だ」
 「どうか・・・・・?」
 「どうかじゃないよ、君。西園寺家のご令嬢と入籍したそうじゃないか」
 「君は、西園寺家のご令嬢とやはり付き合っていたのか?」
 「それには訳がありまして、私もルカが西園寺家の人間だと知らなかったのです」
 「そんな事はないだろう」
 「いえ、本当です。ルカ、いえ伽瑠羅が美里の妹だったことを知ったのは、家田統括とお話した後なのです。それを知って、私も驚いたのです」
 「じゃあ、なぜ入籍した?」
 「それはルカと一緒になりたかったからです」
 「今すぐ別れるんだ」
 「蛭田常務、今、何と仰ったのですか?」
 「別れろと言ったんだ。婚姻無効の手続きを取るんだ!」
 「どうして?何故そんな横暴な事を」
俺は声を荒げた。
 「佐藤君、落ち着いて聞いて欲しい」
 「家田統括、こんな無謀な事を言われて落ち着くことは出来ません」
 「大船駅前の再開発の伴う、100億の商談に白紙撤回要求がきた。それと、君が今、商談中の継続プロジェクトはK社に決まった」
 「何ですって!」
 「もし、君が婚姻無効の書類に判を押せば、商談は白紙撤回を免れる」
 「汚い、汚すぎる」
その時、携帯が鳴った。俺は、切ろうとしたが、妙な胸騒ぎを覚え、電話に出た。
 「美里、ごめん、今・・・・」
 「純平!大変、ルカが連れ戻されたの、早く私のマンションに来て!」
 俺は、はじかれ、飛び出した。家田統括や蛭田常務の呼びかけも、もはや耳に入らなかった。何故?どうしてこんな時に・・・・俺の頭は真っ白になっていた。車に飛び乗ると、美里の家に行く。美里を乗せ、連れ去られたホテルへ向かった。
 「一体、どうしたんだ?」
 「私にも良く解らないのよ。さっき恭一兄貴から電話があって、ルカがホテルに連れて来られているけれど何かあったのか?って。私、ビックリして、純平に電話したの。その後、尊たちには電話しておいたわ。みんなホテルに来てくれる」
 「そうか・・・・」
 俺は考えた。きっと、ゴミでも出しに行った時に狙われたんだ。早朝と言う事もあり油断した。それに、いつもなら、走って逃げられるが、今は一番危険な時だ。走るに走れなかったに違いない。と言う事は、向こうはそれを知っているのかも知れない。
 「美里、届けを出した日、誰かに見られていたんじゃないか?」
 「そんな筈はないと思うの。恭一兄気が嘘を付くとは思えないし・・・・・誰かを雇っていたなら辻褄は合うけれど・・・・・」
 「そうだ、俺の会社に連絡をしてくれ。何も言わず飛び出してきてしまった」
美里は、俺の会社に電話をすると、上手く事情を説明してくれた。
 「ありがとう。美里、西園寺の提携会社はどれくらいある?」
 「さあ、私では解らないわ」
 「そうか・・・・・」
 「どうしたの?」
 「いや、お前の親父、汚い手を使ってきたよ。俺の会社に圧力を掛けてきた。俺とルカの婚姻を無効にする書類に判を押さなければ、商談を潰す気だ」
 「本当?」
 「ああ、今その話をしていた。そこへお前からの電話だ」
 「あのくそ親父!」
 ホテルの前に着くと、次々に西園寺家の人間が集まってくるのが見えた。知った顔もいれば、始めて見る顔もいる。美里は、ひとりひとり名前を教えてくれたが、全部は覚え切れなかった。美里は、恭一さんに電話を掛けると、車に呼んだ。
 「兄貴、ルカは何処の部屋?」
 「まあ待て。純一さん、お久しぶり、今回は・・・」
 「お久しぶりです。で、ルカは」
 「ええ、最上階のスイートにいます。部屋Noは。1027。入り口と中には其々二名ずつメイドが立っています。他に誰がいるのかは、ちょっとわからないのですが」
 「ありがとうございます」
 「美里、俺は一度戻る。怪しまれては困るからね。純一君、また後で」
 「すみません」
 「何か手を考えなきゃな」
 「ええ、でも、尊たちが来てからの方が良いわ」
 「誰が来るかな・・・・」
 俺たちは、その場で尊たちが来るのをじりじりとした思いで待った。そして、二時間後には、尊が声を掛けた全員が集まった。俺は、その多さに驚きを隠せなかった。
 「純平、どうだ」
 「ああ」
 「時間は掛かったが、必ず役に立つ人間に声を掛けたからな」
 「ありがとう」
 俺は胸が熱くなった。だが、感傷に浸っている暇はない。とりあえず、ホテルが見渡せる場所に移動すると、作戦を考えた。今日は、招待客中心の集まりだ。全員でぞろぞろ行くわけには行かない。美里はフリーパスだとしても、その外の人間は難しい。刻一刻と、お披露目の時間は迫ってくる。それまでにルカを助け出さないと・・・俺は焦った。だが、作戦と言っても何をどう出来るか解らないでいた時、美里の携帯がなった。恭一さんからだった。
 「美里、純一君と代わってくれ」
 「純平、兄貴、代われって」
 「はい、代わりました」
 「すまん、親父が変な要求したろう。今解った。それで、ここに来て欲しい。親父が呼んでいる」
 「お父さんが?」
 「ああ、判を押せということだろうが・・・・」
 「解りました。すぐにとは言えませんが、伺います」
 「来る前に電話を掛けてくれるかい」
 「はい」
俺は電話を切り、美里に返す。
 「兄貴、何だって?」
 「婚姻無効の書類に判を押しに来てくれと西園寺さんが呼んでいるそうだ」
 「行くの?」
 「ああ、行くことは行くよ。でも、判は押さない」
 「純平、ひとりで行くなよ。お前ひとりでは心配だ。俺も連れて行け。良いな」
尊が言う。
 「そうだな、あっちが何人居て、どんな手を使うか分からんから、ひとりでは危険だ。そうだ、純平、お前と美里、尊に碧、それから真二、そして俺で行くのはどうだ。立会人としては申し分ないと思うが?」
と峻が提案した。
 どういう人選なのよ?」
美里が聞いた。
 「純平と美里は当然だろう。碧は医者だし、真二は弁護士だ。そして俺は刑事。何があっても大丈夫だ」
 「尊は?」
 「コイツは、純平が早まった行動に出ない為だ」
 「確かに良い人選だな」
と真二が言った。
 「向こうも弁護士を用意しているだろうから、理論武装されたら俺が相手になるよ、純平」
 「悪いな、みんな」
 「気にするな」
 「後の人間は、ここで待っていてくれ。何かあったらすぐ電話するから、頼んだぞ」
 「解った」
 「そうだ、いつでも車を出せるように、誰かそっちも頼むよ」
 「じゃあ、二班に分けよう。信と貴司は車に居てくれ、俺と誠がここに残るよ、良いだろう?」
 「ああ、良いよ、アキラ」
 「みんな・・・・すまない」
 「良いんだよ、純平、行動開始だ!」
 「ああ、じゃあ、美里、恭一さんに電話してくれないか」
 「解ったわ」
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by karura1204 | 2004-12-01 01:23 | 第六章 冬の花火
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