2003年 1月1日 水曜日

 除夜の鐘が鳴り、新しい年の幕が明けた。
 「新年おめでとうございます」
 「今年もよろしくお願いします」
俺たちはお互いに挨拶を交わした。
 「ふたりで始めての新年だな」
 「そうね。でも・・・・実は、ふたりじゃないんだ、本当は」
 「え?何それ?」
 俺は、ルカが何を言い出したのか理解出来なかった。だから、不思議そうな眼差しをルカに向けた。
 「あのね」
 ルカは恥ずかしそうに一言そう言うと、無言で俺の前に小さな手帳を差し出した。俺はそれを受け取り、表紙に目を落とした。次の瞬間俺は声を無くした。表紙に書かれた文字に吸い寄せられてゆく。心臓の高鳴りが聞こえ、俺はルカを見詰める。
 「・・・・・・」
 なんと言っていいのかわからず、ルカを見つめることしか出来なかった。最初に口を開いたのはルカだった。
 「ごめんね、黙っていて」
 「いや、その、あ・・・・」
 「ビックリしたよね」
 「ああ」
 「嬉しくない?」
 「いや、そんな事はない。嬉しいよ。うん、嬉しい。ただ、どう表現して良いか解らないんだ。で、何時解ったの?」
俺は言葉が見つからず、訳の分からない事を口走っていた。
 「婚姻届を出した日。美里姉に頼んで、一緒に病院へ行ってもらったの」
 「そうか、美里は知っているのか」
 「ええ、すぐに言いなよって言われていたけれど、ずっと言いそびれちゃった。純、仕事が忙しかったでしょう。そんな事もあったから」
 ルカは、照れくさそうに俯き加減で言った。
 「ルカ、大丈夫だったのか?重いものを持ったり、寒い中、歩いたりして」
 「大丈夫よ。病気じゃないもの」
 「でも・・・」
 「来年は、新しい家族とお正月を迎えられるわね」
 「ああ、ルカ、良かった。おめでとう。会社に早速言うよ。結婚した事と子供が出来た事。保健とか色々あるからな」
俺はルカをそっと抱きしめた。
 「ありがとう」
 「礼を言うのは、俺の方だ。ありがとう。そうだ、尊に電話しなきゃ」
俺は興奮して、ダイアルした。
 「尊」
 「おお、純平、新年おめでとう」
 「ああ、ありがとう」
 「は?」
 「あ、違う、そうじゃなくて、俺、その・・あー」
 「どうした?ルカさんに何かあったのか?」
 「いや、違う、俺・・・・親父になる」
 「本当か?」
 「ああ、今、ルカに聞いた所だ」
 「そうか、おめでとう。良かったな」
 「ああ・・・・・」
 俺は、その先の言葉が出なくなり、受話器を握ったまま立っていた。ルカが受話器を受け取ってくれると俺は、ベランダに出て「ヤッタ~!」と叫んでいた。
 「尊さん、すみません」
 「良いですよ。あいつ相当嬉しいでしょう。解りますよ、その気持ち。あ、身体大事にして下さいね。ちょっと待って、美紀が代わるそうです」
 「ルカさん、おめでとう」
 「ありがとうございます」
 「心配な事があったら、何でも聞いて。いつでも電話ちょうだい」
 「はい」
 「純平さん、きっと今は、嬉しすぎて言葉にならないと思うわ」
 「ええ、そうみたいです」
 「じゃあ、明日待っていますね」
 「はい。明日よろしくお願いします」
 「純平さんにもよろしく。おめでとう」
 「ありがとうございます。じゃあ、おやすみなさい」
ルカが受話器を置いたのを確認すると、俺はルカを呼んだ。
 「ルカ、おいで」
 「何?」
 ルカがベランダへ出てくる。空には、新年を祝う冬の花火が見えた。俺は、ルカの肩を抱いて月並みだが、
 「ルカ、ありがとう。俺、頑張るから。お前と、俺たちの子供のために・・・」
と言った。
 「お礼を言うのは私だわ。純、ありがとう」
 「そうだ、名前考えなきゃ。両方の名前考えような。本も買おう。それから、親父たちの墓に報告にも行かなきゃな」
 「そうね。お父様もお母様も喜んでくれるわね」
 「ああ。抱かせてやれないのは残念だけど、きっと見ていてくれるもんな」
 「ええ、きっと」
 「寒いよな、中へ入ろう」
 「ええ」
俺は部屋へ入るとルカを抱き上げ、ベッドへ運ぶとお腹を触った。
 「ここにいるんだ。俺たちの子供・・・・」
 「ええ」
 「で、いつ生まれるんだ?」
 「予定では、8月の13日ですって」
 「じゃあ、ルカと同じぐらいになる可能性もあるんだ」
 「そうね」
 「親子で、同じ日って言うのも良いな」
 「ええ」
 「ルカ、嬉しいよ、俺。ルカ・・・・」
俺は、ルカのお腹に耳を当てた。
 「まだ、何も聞こえないわよ」
 「いや、聞こえるよ。ルカ、君の鼓動と一緒に感じるよ、子供の鼓動がね」
 「気が早いわ。純」
 その夜、上がった花火は、新年を迎えた喜びが満ちていた。それは、自分達の明るい前途を祝すものだと俺は思っていた。しかし、俺たちの未来を祝すものにはならなかった。
 ただ、目の前の喜びを俺たちは感じ、会話を楽しんで眠りに着いた。この後、訪れる悲劇を夢にも思わず・・・・・
[PR]
by karura1204 | 2004-12-01 01:25 | 第六章 冬の花火
<< 冬の花火 1月2日 木曜日 >>