ルカが、和尚たちを寺まで送り届けてくれている間に、俺は尊と片付け物をした。
「純平、お前、ルカさんと結婚するのか?」 「ああ、決めたよ」 「そうか」 「何でだ?」 「いや、めでたい。俺は嬉しいよ。ちょっとばかり感慨ひとしおって感じなんだ」 「何だ、そりゃあ?」 「お前が、結婚もせずひとりでいたろ。気侭なお前が羨ましかったが、やはり落ち着いた暮らしをして欲しかったんだよ」 「そうか、俺は、尊、お前が羨ましかったぞ」 「ない物ねだりだな。で、何時結婚式するんだ」 「わからん。俺はいつでも良い。そうだ、此処でやらせてくれないか?あいつの家複雑だから、親族は来ないと思うんだ」 「ふ~ん。別に構わないが、良いのか?」 「何が?」 「女って生き物は、結婚式とか披露宴とかに異常に固執というか憧れがあって大変だぞ」 「ルカに聞いてみるよ。でも、俺の方は、親戚らしい親戚も居ないから、会社の連中とお前らだけだ。出来れば、大袈裟にしたくない」 「何か理由でもあるのか?」 「いや、そう言うわけじゃないが・・・・・」 俺は口ごもった。どう話して良いかわからなかった事もあるが、尊に対して素直に言えなかった後ろめたさみたいなものも感じたのだった。 「言いたくないなら無理するな。言いたくなったら言えよ」 「ああ」 尊の気遣いが嬉しかった。俺も、出来る事なら、ルカに結婚式や披露宴をやってやりたい、だが、許されないだろう。親が決めた相手ならば、それこそ盛大な結婚披露宴になるだろう。ルカが望むと望まざるとは関係なく・・・・ 「ただいま」 ルカが帰って来た。 「ルカさん、お帰り、純平さん、厨房よ」 「ありがとうございます」 俺は厨房から顔を出すと声を掛けた。 「お帰り、珈琲入っているよ。美紀ちゃんもおいで」 「純平さん、ごめんなさい。今母乳をやっているから珈琲は飲めないの。ココアを牛乳で入れてくれます?」 「良いですよ」 「美紀さん、赤ちゃん抱っこして良いですか?」 「ええ、良いわよ」 「名前、なんて言うんですか?」 「龍哉よ、良い名前でしょう」 「ええ」 厨房に、ルカが赤ちゃんを抱っこして来た。 「純平さん、早くあなたたちの赤ちゃんをルカさんに抱かせてあげてね」 「可愛い、ねぇ、純」 ルカの笑顔は、天使のように輝いていた。 「ああ」 俺は、突然 「ルカ、此処で結婚式と披露宴しないか?」 と聞いた。 驚いたのは尊と美紀ちゃんだった。 「純平、いきなりこんな所で」と尊は俺に言ったが、「良いわね」とルカがあっさり言ったので、ふたりは更に驚いた。だが、俺にはルカが『良いわよ』と言う気がしていた。 「お前たち、良いコンビだ。俺は何にも言えん。まあ、此処は好きに使え。なあ、美紀」 「ええ、いつでもどうぞ」 「ありがとう」 ルカも頭を下げた。 そして、俺たちは珈琲を飲み、親父やお袋の思い出話をした。夕飯を一緒にと勧められたが、俺たちは帰る事にした。 「また、来るよ。今度は、俺の所へも来てくれ」 「そうだ、お正月に、パーティーしましょう」 美紀ちゃんが言った。 「それ、良いな。純平、みんなを集めて正月にパーティーやろうぜ」 「ああ、そうだな。俺も久しぶりに、本格的な料理をしたいところだ。お前と一緒に作るよ」 「楽しみにしている。みんなには、俺から連絡しておくよ」 「ああ、頼む」 「じゃあ、お邪魔しました」 「いえいえ、何のお構いも出来なくて」 「じゃあ、また」 俺たちは、尊の家を後にした。 「さあ、ルカの走り、見せて頂きましょうか」 「任せておいて」 ルカは、車を走らせた。 「ねぇ、上手でしょう」 「そうだな」 ルカは、車の運転が楽しいようで、鼻歌交じりに転がしている。 「日本で免許取ったのか?」 「ええ、高校の時に取ったわ」 「国際免許も持っているのか?」 「ええ、向こうで免許がないと不便でしょう。大学の時に向こうへ行って直ぐに取得したわ」 「じゃあ、ベテランなんだな」 「そんな事はないわ。日本ではあまり運転していないから、ちょっと怖いわ。でも、運転するのは好き」 「そっか・・・じゃあ、明日も休みだから、ドライブ行かないか?好きなだけ運転して良いぞ」 「え、ホント?」 「ああ」 「でも、この服じゃ・・・」 「それもそうだな。一度家に帰って着替えるか」 「そうしましょう」 「じゃあ、一気に高速で帰ろう。次の交差点、右折して二つ目を斜め左に入れば高速の入り口への近道だ」 「OK!」 ルカの運転は、安心だった。俺は、ここ数日の疲れも手伝い、少しウトウトとしていた。考えてみれば、そりゃあそうだ、仕事で残業続きの上、美里から聞かされた話に、俺の頭はパニック寸前だったのだから。気付くと、車は、知らない間に高速に乗っていた。 「ああ、寝ちゃったな」 「気持ち良さそうだったから、起こさなかったわ」 「ありがとう。でも、道、良くわかったね」 「標識見ればわかるわ」 「そうか、まあそれもそうだよな」 俺は笑った。 「ねぇ、ベイブリッジって、何処を走れば良いの?」 「えーっと、ああ、次のところ、左側走っていて、分かれ道に来たら、そのまま左に行って」 「通って見たかったんだ」 「じゃあ、パーキング入る?」 「良いの?」 「ああ、構わないよ」 「嬉しい」 ルカは、スピードを上げた。結構スピードを出し走る。 「ルカ、スピード出すね」 「そう?」 「ああ」 「だって、気持ち良いじゃない」 「安全運転で頼むよ」 「大丈夫よ、無茶はしないわ」 俺の予想を遥かに超えたドライビングテクニックで、ベイブリッジの大黒パーキングに着いた。 「早かったね。ルカは、スピード狂みたいだ。俺のバイクと良い勝負だよ。何だか、ルカを乗せて走りたい気分だよ」 「もう乗っていないんでしょう?」 「まあね。でも、ルカを乗せたい」 「ありがとう。あ、ちょっと待っていて」 ルカは、バッグからルージュを取り出すと、きゅっと唇に引いた。 「さあ、行きましょう。お腹空いちゃったわ」 「何だ、そう言う事か」 「純だって、空いているくせに」 「はい、はい」 俺はおかしくて、笑った。ルカもつられて笑った。昼間、仲間といてあまり食べられなかったのだろう。ルカは、気を使いすぎるところがあるから、昼間は疲れたはずだ。それに、何と言っても夕飯がまだだったからな。 「何食べる?」 そう言いながら、俺の腕に絡みついた。 「そうだな、何が良いかな・・・上のレストランに行って見よう」 俺たちはエスカレーターを昇り、レストランのショーケースを見た。 「色々あるな」 「そうね。あ、私このハイカラ丼って食べてみたい。サラダバーとハイカラ丼にアイスティーにするわ」 「じゃあ、俺もサラダバー、あとチキンステーキにジンジャーエールにしよう」 中に入ると混んでいて、30分ぐらい待つといわれた。 「30分か、どうする?下の方にするか?」 「う~ん、そうね。下に行きましょうか?」 「お腹空いているもんな」 「ええ、でも、このハイカラ丼は、捨てがたいな~」 「下にもあるかもよ、見てみよう」 「そうね、行って見ましょう」 下に降り、売店を回ってみた。 「あ、あった。純、ハイカラ丼、あったわよ。私、これね」 「俺も、それにするよ。待っていて、食券買ってくる。他には何か食べる?」 「お好み焼きかたこ焼が良いな」 「わかった。ルカ、飲み物、買っておいてくれる?」 「何が良い?」 「アイスティー」 「わかった」
by karura1204
| 2004-12-01 01:38
| 第四章 パンドラ
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