9月21日 土曜日 1

 今週は、俺も3連休。久しぶりにルカと、ゆったりとした時間を朝から過ごした。ベッドで楽しみ、食事を作り、散歩をし、穏やかな日常がそこにあった。
 ただ、気になる事がひとつ増えた事を除けば・・・・・・
先週、俺たちは、ひとつに結ばれた。あの日、俺が居ない間、ルカの中で、何かしら変化があった筈なのだ。その変化が、俺とひとつになる事で、あの不安に満ちた瞳が消え、それまでと何ら変わらないように見えるようになった。
 いや、正確に言えば、一切の不安が取り払われたように落ち着きが増した。と言った表現が当てはまる。何故だろう。俺の心には、家田統括部長が言った、西園寺財閥令嬢の事と、美里の電話によって生じた黒点とがごちゃ混ぜになっていた。
ルカと、ベッドでの楽しみを共有できる事は、幸せな事なのだが・・・・・・
 「ルカ、じゃあ出かけてくるよ。明日は、法事よろしくな」
 「ええ、行ってらっしゃい。久しぶりのお友達と楽しんできてね」
 「なるべく早く帰るよ」
 「いいわよ、ゆっくりしてきて」
 「ありがとう。でも、明日の事があるから、遅くはなりたくないよ」
 「そうね。じゃあ、明日に響かない所で帰って来て下さい」
 「ああ」
玄関でキスをして俺は出かけた。

 5分前に着くよう調整をしながら出掛けて行った。途中、タイピンのお礼に花束を買った。店に着くと、美里はもう、店じまいをして、シャッターの前にいた。
 「早いじゃない。流石ね」
 「いや、そんなことはない。あいつが、時間に間に合うよう送り出してくれたからね」
 「まあ、ごちそうさま」
俺は、ちょっと照れて頭をかいた。
 「あ、これ、タイピンのお礼」
 「良いのに。でも、ありがとう。嬉しいわ」
 「何処へ行く?」
 「私の馴染みの店があるのよ。小さいけれど、良い店よ」

 美里は先に立って歩き出した。俺は後からくっついて行く格好になった。美里が案内してくれた店は、地下にあった。確かに小さいが、雰囲気が良く、俺好みだった。
 「ね、良いでしょう」
 「ああ」
 「如何いたしましょう」
店の雰囲気にマッチしたマスターが注文を取りにきた。
 「私は、ソルティードッグをお願い。純平は?」
 「俺は、ジンライム」
 「マスター、つまみは適当に頂戴」
無口そうなマスターが、承知ですと言わんばかりに頷いた。
 「で、話って何?」
 「そんなに急かさなくても良いでしょう」
 「まあな。そう、明日来てくれるだろう?親父たちの13回忌」
 「ええ、ちょっと遅れるかもしれないけれど行くわ。みんな来るんでしょう?」
 「ああ、殆ど来てくれる予定だよ。あいつら、義理堅いからな」
 「ホント、ちょっと時代遅れの連中だからね」
 「まあな」
 飲み物が目の前にスッと置かれた。俺らは、グラスを傾けた。ひと口飲むと、俺はどうしても早く聞きたくて、急かすように言った。
 「なあ、いきなりで悪いんだけど、聞きたい事が有るんだ」
 「何かしら?」
 「西園寺財閥のお嬢さんだったよな、美里は」
 「お嬢さんと呼べるかどうか分からないけれど、まあ一族の人間だわ。それがどうかしたの?」
 「ああ」
いざ、聞くとなると躊躇いが生じた。それに、何をどう聞いて良いのか、言葉を捜していた。
 「どうしたの?」
 「いやね、家田統括部長から変な事を言われてね・・・」
 「変な事?」
 「ああ」
 俺は、心を落ち着けるためにグラスをあけ、一呼吸おいてから言葉を発した。
 「実は、うちの常務が、俺とルカがデートしている所を見たと言うんだが・・・その相手が、君だとね」
 「え、私?ありえっこないじゃない」
 「ああ、俺もそう言っておいた。だが、西園寺財閥のお嬢さんだったと確信を持って言ったそうだ。君とルカでは、雰囲気が違いすぎるだろう」
美里は、思案する目を宙に向け、独り言のように言った。
 「ふ~ん、それでか、それで居場所が解っちゃったのね」
 「え?何それ?」
 「うーん・・・・」
 「何だよ、はっきり言えよ」
 「私とルカ、血は繋がっていないけれど姉妹なのよ」
ゥヘーと、俺は口に含んだ酒を吐き出してしまった。美里は、平然とダスターでカウンターを拭き、ハンカチを俺に渡した。
 「マスター、ごめん、もう1枚ダスターくれる」
 「良いですよ」
 「何なんだよ、それ」
俺は、声を荒げていた。他の客がビックリした目を向けた。
 「ごめんなさい。隠すつもりは無かったの……でも、私も驚いているのよ。あの子があなたの所にいたこと」
 「いや、そうじゃなくて、何でお前たちが姉妹なんだ?」
 「ややこしい話なの。今日、純平を呼び出したのは、実はその事でね・・・・」
 「話せよ、早く」
俺は少しきつく言った。だが、美里はそれをかわす様に聞いた。
 「純平、ルカの事、どう思っているの?」
 「何だよ、いきなり」
 「聞かせて」
 「それが、お前たちが姉妹だって事と何の関係があるんだ?」
 「あるのよ。ルカの事どうなの?」
美里の物言いに不満を感じながら、
 「好きだよ。大事だと想っている」
美里は、満足気に頷き、
 「西園寺の家には、父しか跡継ぎが居なかったのね」
 「は?それが?」
俺は苛立った。
 「まあ、待ちなさいよ。落ち着いてって言っても難しいかもしれないけれど、ちゃんと話すから」
 「ああ」
俺は、無理に落ち着こうとした。
 「父は、自分の跡継ぎがどうしても欲しかったのだけれど、私の母は、女の子しか産めなかったの。病弱でね、私と、直ぐ下の杏子を産むと亡くなったわ」
 「え、お前そんなに姉妹がいたの?」
 「そう、杏子は母に似て繊細で病弱だから、あまり外には出ないのよ。だから、杏子の事を知っている人は少ないわ」
 「そうか、それで?」
 「父は、仕方なく養子を取る事にした。それが、恭一兄貴よ」
 「恭一さんは、養子だったのか」
 「ええ、私がまだ幼稚園の頃だったわ」
 「確かにややこしそうだな」
俺の頭は混乱し始めた。
 「そうでしょう。でね、ルカは、父の再婚相手の子なのだけれど、父の血は入っていないの」
ますます訳が解らない。俺が不思議そうな顔をしていると、
 「私も、何をどう話して良いのか考えながらだから、質問はあとにしてね」
 「ああ」
 「ルカの母親は、パリで日本文化を紹介する仕事をしていて、向こうで父と出会ったの。父は一目ぼれをしたそうよ。でも、ルカの母親には付き合っている人がいたから、父の事は何とも思っていなかった。いくら父がアプローチしても知らん顔だったらしいわ」
 「もしかして、君のお父さんは、ルカの母親を無理矢理?」
 「そうみたい。情けないけどね。ルカの母親は、それでも良いと言ってくれる相手と、逃げたそうよ、父からね」
 「勇気あるな」
 「そう、強い人だった」
 「だった?」
 「ええ、今は父の言いなりだもの」
 「何で?」
 「さあ、ルカを守っているつもりだとは思うけれどね」
美里は、グラスを開けると、次を注文した。
 「ねぇ純平、もう一度確認しておきたいの、良いかな?」
 「ああ」
美里は、俺の眼を見て。
 「あんたの決意はどうなの?ルカを幸せにする気持ちある。どんな事が起こっても守れる?その決意がないなら、これ以上の話はしない。今、少しでも揺らいでいる気持ちがあるなら、あの子をあなたの所から追い出して欲しいの。これは、あの子の姉としての想いよ。純平に迷いがあるなら、あの子のためにもそうして欲しい」

 俺は、先週ルカが取った態度の意味を理解した。ルカはあの時、決意したのだ。俺と生きることを、母親の二の舞にならないように、逃げない事を・・・・・俺の胸は熱くなった。
 「美里、話してくれ。ルカはもう決心している。俺だけが逃げたのなら・・・・ほら、硬派の俺としては逃げるわけには行かないだろう」
 「ありがとう。でも、硬派の俺ってのは言い草としては変ね」
 「そうかな?」
美里は、笑った。だが、俺には笑って話せるゆとりなどは微塵もなかった。
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by karura1204 | 2004-12-01 01:40 | 第四章 パンドラ
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