8月7日 水曜日 2



 19時前、家田統括部長からの電話があり、MM21内の割烹居酒屋で食事をした。俺は、酒が進む前に、部内秘書の件を切り出した。
 「家田統括部長、お願いと言うか、ご承諾願いたいのです。一方的に言いますが、今度のプロジェクトで部内秘書を置きたいのです。会社側としては、廃止した制度です。しかし、俺は、部内秘書と言うのは重要な役を持っていて、必要性を高く感じているのです。SEの仕事をしながらでも、個々のこと務能力を高めるには、サポートしてくれる人間も必要ですし、専門知識を持ち、サポートしてくれる人間がいることは、こちら側でも心強いのです。如何でしょうか?」
 「で、誰を考えているのかな?」
 「はい。神保薫と言う女性です」
 「高橋君じゃないのか?」
 「ええ、彼女のことも考えました。しかし、彼女以外で今回はやってみたいのです。珠樹君がいなくなってから、高橋君は、細々と面倒を見てくれましたが、SEとしての仕事をこのプロジェクトで発揮して欲しいのです。彼女のキャリアを伸ばしたい。今のまま高橋君におんぶに抱っこ状態では彼女が可哀想だと思うのです。それに、神保君のことは、高橋君からの推薦でもあります。このメモを見て下さい。高橋君が書きました」
 俺は、メモを家田統括部長に見せた。統括部長は、黙って読んでいたが、感心したように
 「ほー、これは凄いね。この観察眼は、私も見習わないといけないな」
と言った。俺は。すかさず、
 「そうでしょう。俺も思いました。こういう眼をプロジェクトで発揮して、次期計画のメンバーに入って欲しいと思います。今回は、三枝のある意味奇抜なアイディアを先方が気に入ってくれましたが、次回も同じ手は使えません。そうなった時には、相手の手の内を見極められる目を持った会社が有利だと思います。その点、高橋君は適任だと想いますからね」
 「そうだな。SEサポートとして、神保君を育ててみるか」
 「はい」
 「同じ人間が、同じ役回りだけをやっていると、驕りや満も出て来る。ひとつ、改革をやってみるか」
 「ありがとう御座います」
 家田統括部長は、本当に打てば響く人で、俺としては助かる。総務の堅物国見部長とは偉い違いだ。その後、俺たちは、仕事を離れ、他愛のな話しをしていた。が、突然変なことを言われた。
 「そうそう、佐藤君、君、昨日、西園寺財閥のご令嬢とご一緒だったそうだね。君たちを見かけたという人がいてね。まるでデートだったと言っていたよ」

俺は、一瞬何のことだか分からなかった。
 「美里のことですか?美里となら、昨日は会っていませんが・・・・」
 「美里さんとおっしゃったかな?いや、名前までは良く知らないが、違う名前だったような気がするのだが」
 「俺の知っている西園寺財閥の令嬢は、美里です。大学の同期です。彼女は、経済学部、俺は、工学部でした。天文学同好会で知り合いました。彼女、鉱物に興味を持ち、今では、銀座の裏通りで宝石店のオーナーをやっていますよ」
 「そうだったか?直接お会いしたことがないので良くは知らないのだが、昨日、君のデートの相手が西園寺財閥のご令嬢だと聞いて、驚いていた所だよ」
 「いえ、西園寺財閥の令嬢ではないです。大学時代、美里は天文学同好会のマドンナ的存在でした。友達として今でも付き合いはありますが、俺の相手ではありません」
 「そうか、じゃあ、ヤツの見間違いだな」
 「何処で、俺たちを見かけたのだろう?その方は、誰でしょうか?」
 俺は不安になって聞いた。
 「常務だよ。蛭田常務。京浜東北線の車内だそうだよ。君の顔を見たので声を掛けようと思ったら、何時もの君らしくない顔で、女性と一緒だったという。で、相手の顔を見て、また驚いた。西園寺財閥のご令嬢だと興奮して私の所に電話をよこしたと言う訳だ。きっと、慌てたのだろう。君の顔が、とても優しく良い顔だったと言っていた。あれは、絶対恋していると、野次馬みたいなことを言っていた」
 「参ったなー」
 「いや、参ることはない。誰でも、恋をすればそう言う顔になる。それに、最近の君は、仕事が取れたこともあるだろうが、雰囲気が変わったと評判だぞ」
 「ハー」
俺は、照れた。
 「恋も仕事も充実している時が良い。確かに、君の顔は、今、良い顔だよ。大事にしなさい」
 「ありがとう御座います」
 それから、俺たちは、かなり遅くまで飲み、楽しく話をした。しかし、俺の心の中に、小さな雲が発生していた。その雲はやがて、暗雲となって俺とルカに襲い掛かってくるのだった。
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by karura1204 | 2004-12-01 01:46 | 第三章 黒点
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