8月6日 火曜日 2

 夕暮れ時、予約していたビストロで食事を取った。窓際の海が見える場所だ。ワインを傾けながら、ゆったりとした食事をした。
 「ルカ、27歳の誕生日、おめでとう」
 「ありがとう、純」
 海を見ながらの食事にルカは感激していた。最後に、バースデーケーキを出してもらった。蝋燭の灯ったケーキ。プレートにはHAPPYBIRTHDAYの文字。思わずルカは、
 「純、私、こんなに良くしてもらって・・・本当にありがとう・・・私」
言葉を詰まらせた。
 「気にしなくて良い。君の誕生日だろう」
 「でも・・・」
 「ルカらしくないな。大食漢のルカだから、食事足りなかったかな?」
 俺はちょっと茶化すように言った。
 「ひどーい。もう充分食べました」
 「じゃあ、このケーキは俺が貰おう」
 「純の意地悪。食べますよ」
 「じゃあ、蝋燭の炎、消して」
 俺は笑いながら言った。ルカは一気に蝋燭を吹き消すと、嬉しそうに笑った。俺は、切り分けると、皿に盛り、ルカに渡す。ルカは満面の笑みを浮かべ、ケーキにぱくついた。
 「いいねぇ。ルカは、そうじゃなきゃ」
 俺は、ルカが食べている顔を見ているのが好きだった。俺も笑顔になる。この笑顔を、俺は一生見ていたいと願った。ルカの笑顔がみられるなら、俺はなんだってしてやりたいと思っていた。

 俺があんまり見詰めているものだから、ルカは、
 「純、食べないの?食べちゃうよ」
と声を掛けた。
 「食べるよ。でも、食いしん坊のルカを見ているのが楽しくてね。それに、残りは、テイクアウトするから、今無理に食べなくて良いよ」
 ルカは、フフフと笑った。ケーキを堪能しながら、俺は、
 「ルカ、最後に、俺が一番プレゼントしたかったものを見せるよ」
と言った。
 「何?」
 「きっと気に入るよ」
 「何かしら?楽しみだわ」

 店を出ると、京浜東北線に乗る。わざと、反対方向の電車に乗り、途中で引き返す。不思議そうにしているルカ。丁度桜木町駅に入る頃、進行方向右側の窓際へ、俺はルカを連れて行った。
 「見てごらん」
 俺はルカを窓にむけた。目の前には、光が織り成す世界が広がっていた。
 「綺麗・・・・」
 それきりルカは黙った。ただ、ただ目の前の世界に浸っている。
 東神奈川に入線した時。ホーっと溜息をつき、俺の肩に寄りかかり
 「純、ありがとう」
ルカは囁いた。
 それから、俺たちは家までの道程を、無言の言葉で会話をした。手を繋ぎ、温もりで会話する。俺の一番好きな時・・・・・・・

 こうして、ルカの誕生日は終わった。
 この先は、忙しい日々になる。家についてから、俺は珈琲を淹れながらルカにそう言った。
 「今日みたいに、ふたりで過ごす時間は中々取れない。残念だけど」
 「仕事だもの、気にしないでね」
 「ああ」
 「ねぇ、純」
 「何?」
 「今日は、楽しかった。本当にありがとうね。私・・・」
 「ほらほら、また。俺は、ルカが喜んでくれたらそれで良い。もう、言わない」
 ルカは、黙って頷いたが、何か言いたそうだった。
 「じゃあ、明日早いから、俺はシャワー浴びて寝るよ。ケーキ、冷蔵庫に入れて置いて。頼むよ」
 「わかったわ」
 俺は、シャワーを浴びた。浴びながら、『ルカ、また気にしちゃったかな?』と思った。ルカが気にしない方法を考えたが、良い考えが見つからなかった。風呂から上がりルカに声を掛けた。
 「ルカ、君もシャワー浴びたら?」
 「ええ」
 「俺は、寝るよ。おやすみ」
 「おやすみなさい」
 俺は、ベッドに横になった。横になりながら考えた。ルカが、気にしない方法。考え付かなくて、起きたり、寝返りを打ったりしながら、ルカのベッドを見た時、ふっと閃いたことが有った。そうだ、この間の・・・。ルカが、シャワーを浴びてきた。俺は、声を掛けようと思っていたが、ルカの方が、先に声を掛けた。
 「純、寝ちゃった?」
 「いや、まだ寝ていないよ。ルカ、ちょっとここに来て」
ルカをベッドサイドに呼ぶと、
 「ルカ、今日のことは、俺がこの間風を引いた時に迷惑をかけた御礼だよ。だからルカ、気にしないで欲しい。ルカに気にされると、俺が困る」
 「でも、私、純の優しさに甘えてばかりいる。こんな、何処の人間か判らない女を置いてくれるだけじゃなくて、我侭を聞いてくれる」
 「良いんだ。俺が、そうしたいからしているし、俺は、君が愛しい。こういう気持ちは初めてだよ。ただ、君が重荷に感じるなら、もう」
ルカは、首を横に振った。
 「私、純のこと、好きだと思うの。でも、怖いの」
 「鍵の人を忘れることが、かな?」
 「ううん。あの人のことは良いの。私を裏切って行った人だから。そうじゃなくて・・・」
 「無理しなくて良い。俺は、君の今の言葉で充分だから。もう、おやすみ。いいね」
ルカは、動こうとしなかった。
 「しょうがないな。じゃあ、俺のお願いを聞いてくれるかな?」
ルカの瞳が俺を見詰めた。
 「ここで、一緒に寝てくれるかな?あ、今日は裸じゃなくて良いから。その、また風邪を引くと困るしね」
ルカは、微笑んだ。
 「よし、決まり」
 俺は、ルカを布団に入れ、キスをするとそのまま眠った。
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by karura1204 | 2004-12-01 01:47 | 第三章 黒点
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