8月6日 火曜日 1

 俺は、昨夜寝たのが遅かったにも関わらず、予定より早く目覚めた。疲れを感じていない。爽快な気分だ。
早速、夜中にこしらえておいた材料でお弁当作りを始めた。
 先ず、解凍したご飯を型にいれ、薄めのおにぎりを作る。それを表面がカリカリに成るまでフライパンに押し付けながら焼く。カリカリに成ったら、醤油に砂糖を溶かした甘タレを付けて焼きおにぎりにする。中へジャガコロッケを挟んで、キャベツの千切りをのせ、ウスターソースをかける。これで、ライスコロッケサンドの出来上がり。 
 次に、解凍した挽肉と、炒めておいた野菜と合わせハンバーグを作る。両面を焼いたら一度取り出す。火を細くして、そこへケチャップと中濃ソース、醤油、塩コショウ、日本酒少々を入れソースを作る。これは、好みなのでなんとも言えないが、ケチャップ3に中濃ソース1、隠し味に醤油をいれ、塩と胡椒で味を調える感じが俺は好きだ。後、日本酒の代わりにワインを入れても良い。入れすぎるとしつこくなるので、最初に入れてアルコールを飛ばしておいた方が良いと思う。ソースが出来たら、取り出しておいた肉を戻して、蒸し煮にする。火が通り過ぎないように火加減は中火ぐらいが良い。
 その間に、バンズパンでも食パンでも良い、少しチンしてふかふかにしておくと、ソースがパンに染みて美味しい。今日は、バンズパンにした。ハンバーガーには、レタスや、トマト、チーズ、ピクルス等を入れた。かなりのボリュームになった。テーブルにバスケット、コーヒーを入れたポットを用意したところに、ルカが起きてきた。

 「やあ、おはよう」
 「おはよう。早いわね」
 「ああ、ピクニック気分でお弁当を作っていたよ」
 「ワー嬉しい!中身は何?」
ルカが覗き込もうとするのを
 「駄目、後のお楽しみ。支度しておいで」
と俺は言った。ルカは、首をすくめ
 「ハーイ」
とおどけて言った。
 ルカは、70年代っぽいジーンズに白のメンズシャツの裾を結んでいた。軽い朝食を用意し、俺も着替えた。ルカに合わせ、ジーンズとシャツにした。テーブルの上のバスケットに帽子が2つ並んでいた。黒の皮っぽいキャップ型だ。
 「どうしたの、これ?」
 「良いでしょう。この間、散歩していたらガレージセールをやっていたの。リサイクルだから、2つで500円。本当は、1つ300円で売っていたの。2つ買うから500円にしてよって、ね、良いでしょう」
 「そうか、それは良い」
俺は笑いたいのを堪えていた。
 「それより、純、何で、バスケットなんか持っているの?男の人で持っているなんて珍しいわ」
 「ああ、別に俺のじゃないんだ。だいぶ前に、尊たちとドライブに行った時、誰かの彼女が持って来ていたんだが、俺の車に忘れてね。で、そいつ等その後直ぐに別れてしまった。返そうと思ったが、いらないと言われて、そのままさ」
 「勿体ないものね」
 「だろ」
食べながらそんな話をしていた。
 「そろそろ出かけようか?」
 「ちょっと待って、日焼け止め塗らなきゃ。純も塗ってね」
 「俺は良いよ」
 「駄目よ、皮膚ガンになるわ」
 「気にしないよ」
 「子供に遺伝するのよ。はい、手を出して。顔だけじゃなくて手も首も塗るのよ」
俺は言われるまま日焼け止めを塗った。
 「これで良いのか?」
 俺は、聞いた。だが、所々ムラになっていたようで、ルカに思い切り笑われた。
 「そんなに笑うなよ。初めてなんだぞ」
 「ごめん、ごめん。ちょっと座って」
 ルカが、顔のムラを塗り直してくれた。胸元から甘い香りがほのかに香ってきている。香水だろうか?
 「はい、お仕舞い。手は自分でよく伸ばしてね」
 「良い香りだね。香水?」
 「違うわ。ハーブよ。ハーブオイル。私、香水の強いにおいが苦手なの」
 「あ、俺も」
 「純もつける?私が調合した物だから、香水の苦手な人でも大丈夫よ」
 「俺、俺は良いよ」
 「そう・・・・」
 ルカの瞳がクルリと動いた。何か企んでいる。俺は直感した。
 「ルカ、何を考えている?」
 「何も、どうして?」
 「いや、君の瞳がクルクル動く時は、悪戯をする時だから」
 「何、それ?」
 「判らないだろう、ルカは、無意識だから」
 「変なの」
 「良い、良い、出かけよう」
 俺は、ルカの悪戯心が芽生えないうちにと思い、飛び出すように家を出発した。
 だが、駅まで歩き、切符を買ったその時だ。首筋にルカの香りとヒンヤリとした感触を感じた。隣にいたと思ったルカが、背中からヒョコっと顔を出した。
 「ルカ、何をした?」
 「別に、ただ、オイルを耳の後ろにちょっと付けてあげただけよ」
 「あのなー」
 俺は言いかけたが、ルカのブルーの瞳に出会いドキドキして次の言葉を失った。
 「怒った?」
 「しょうがないな。怒ってないよ」
 「ごめんね」
 ニッコリと笑うルカ。俺は、外人がする仕草のように両手を挙げ、ルカの首に手を回しながら切符を渡した。

 ルカは、出かける先、出逢う人がいるかいないかで、さまざまな対応をする。今日のルカは子供みたいだ。はしゃぐルカを見ていると、俺も子供になれる。さっきの様な悪戯さえ受け入れられた。
 電車の中で、周りの若い奴等に触発されたように、俺はルカの肩や腰に手を回した。何時もは、そう言う奴等を見ていると、一体どうなっているのだろう?こいつ等恥ずかしくないのか?公衆の面前で何を考えているのだ?と思っていた。ナンパしていた頃も俺からベタベタとくっ付いたことはしなかった。相手の女からくっついてきた。流石にキスはしなかったが、俺はルカを守るように体を寄せていた。ルカも俺に身体を預けていてくれる。俺の心は充足感で満ち溢れていた。
 山下公園・海の見える丘公園・外人墓地・元町と俺たちは散歩して歩いた。海の見える丘公園でお昼にした。兎に角良く歩いた。そして、疲れを知らぬ子供のように、じゃれあった。MM21の遊園地にも行った。風船を買い、ポップコーンやソフトクリームを食べ、様々な乗り物に乗った。ルカは、ジェットコースターが嫌いだと、乗る前に大騒ぎだったが、乗ってしまったら、誰より楽しんでいた。そのことをからかって言うと、
 「それは違うわ。怖くて仕方がなかったの」
と膨れた。俺は、そんなルカが可愛くて仕方がない。
 ジェットコースターを降りたところに、写真がパソコン画面で表示されていた。俺たちは一枚ずつ記念に買った。何でも、今月のベストショット、と言うのが有って、2ヶ月分を貼り出していた。ルカは、
 「貼られたらどうしよう?」
 と今から貼られる気でいるように思えた。だが、その物言いは、どこか期待というより不安気だった。貼られると困ることでもあるのだろうか?俺の心に小さな棘が刺さった。その棘を俺は隠し笑顔を作った。
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by karura1204 | 2004-12-01 01:48 | 第三章 黒点
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