7月30日 火曜日 2

 「ただいま」
 「お帰り」
 ルカはキッチンにいた。
 「ルカ、ちょっと」
 「何?」
 俺はポケットから買ったばかりの指輪を取り出すと、ルカに見せた。
 「はい、プレゼント」
 「え、私に?」
 「そうだよ。ルカは俺の婚約者だから、指輪がないのはおかしいだろう」
 「でも・・・」
 そう言ったきり指輪を見つめ黙ってしまったルカ。やはり、底までは重かったのか・・・俺はルカが気にしないように勤めて明るく言った。
 「良いんだ。俺が、ルカにしていて欲しいだけだ。それに、今までの俺たちの生活を変える必要はなし。俺もその方が良い」
 「本当に?」
 俺を見詰めるルカ。
 「ああ」
 俺はルカの指に、指輪をした。左手の薬指にピタリと入った。
 「凄い!ピッタリ」
 「似合うよ」
 「ありがとう」
 「婚約指輪って、中指らしいけれど、ルカの指をみたら、薬指の方が良さそうだと思った。ちょっと小さかったな」
 「大丈夫よ。ここが良いわ」
 そう言うと、手をかざして指輪を見ていたが
 「私、何て言ったら・・・・」
 ふいに涙が零れ落ちた。俺はそっとルカを抱きしめ、
 「ルカが気にする事は何もない。俺が、ルカに居て欲しいと思っているのだから」
 抱きしめていた手を離そうとした時、
 「お願い、もう少しこうしていて」
 ルカが囁いた。俺は強く抱きしめた。ルカの髪の香りが鼻をくすぐる。理性が揺らぐ。このままルカを抱きたいと強く思った。今ならルカも俺を受け入れるかもしれない。想いがよぎる。
 しかし、俺はルカを抱いてしまうことが怖かった。何かが音を立てて崩れ去ってしまう気がした。
 男と女の関係になるのは、いたって簡単だ。だが、その後が問題なのだ。俺が今まで一夜限りの関係で女と寝てきたのは後腐れなく別れる為だ。夜が明ければ他人になる卑怯な関係。
 その俺が、ルカを大事にしたいと思っている。もし、永遠と言う言葉が有るのなら、それはルカと過ごす時間だと確信したのだ。だから、セックスの頼る関係は作りたくなかった。お互いの機が熟した時、愛し合えば良い。今のルカはまだ、心から俺に心を許しては居ない。許してくれるその時まで俺は待とうと思った。
 「ありがとう」
 「いいえ、どういたしまして」
 「純、ご飯は?」
 「まだだ」
 「良かった、今日ね、英語を習いたいって来てくれた方が、お料理を持って来てくださったの。助かっちゃったわ。一緒に食べましょう」
 「ああ、着替えてくるよ」

 その日、食後の珈琲を淹れながら、
 「そうだ、表札作ろう」
 と提案した。
 「良いわよ」
 パソコンの前に移動すると、ああでもないこうでもないと言いながら、夜遅くまで時間を過ごした。プリントアウトして、夜中だと言うのに、玄関に出ると、それまで俺ひとりの名前だった紙を取り除き、ふたりの名前の書かれた紙を入れた。
 「佐藤純一
     ルカ」
 外電気に照らされた俺たちの名前が照れくさく、直ぐに部屋へ入った。
 「なかなか、良い出来だよな」
 「そうね」
 ふたりともテレと同時に、心が、興奮していた。眠れない気分だ。珈琲を淹れる。時計は夜中の2時を回っている。
 「ちょっと、お腹空かない?」
 「そうだな~。よし、胃にもたれないような、軽くてお腹が満足するもの作るよ。ルカも手伝って」
 「ええ」
 ふたりでキッチンに立つと、パンを取り出して、あまり甘くないフレンチトーストを作った。
 そして、ついでに翌日の分まで作ってしまった。大根とツナのサラダ。ゆで卵の黄身を取り除き、白身の部分に挽肉を詰めたものを揚げた。残りの黄身をマヨネーズとチーズで和え、肉詰め卵のソースにする。赤・黄・緑のパプリカを軽く炒め、塩・胡椒で味付け、カレー粉を振り掛ける。カレー粉は便利な物で、塩や胡椒に深みを出してくれる。何かちょっと物足りない時にカレー粉を一振りすれば、味も気分も変わるし、食欲も出る。ブイヨンスープを作り、人参・ブロッコリー・エリンギを具にする。
 テーブルにセッティングをして、俺たちは満足げに食べ始めた。
 「美味しい!この時間に揚げ物心配だったけれど、しつこい感じがしないわ」
 「腕が良いからね」
 「まあ」
ルカは笑った。
 「昨夜、ルカ何か作ろうとしてたろう。その野菜があったから早くできたよ」
 「そうなの?」
 「そりゃあそうさ。皮むいたり、切ったりする手間が省けるからね。かなりの時間短縮だよ。少し仮眠を取ってから、会社へ行くよ」
 「今日は遅くなるの?」
 「解らないな。遅くなるようなら電話かメールで連絡するよ。そうそう、珈琲が呑みたいときは、冷蔵庫の専用ポットに入れて有るからそれを飲むと良い。ホットなら、それをレンジで暖めれば良いよ。味は少し落ちるけど、誰か来るなら、それを出せば楽だ」
 「そうするわ。今日も希望者から連絡あるかな?」
 「有るよ、きっと。そうだ、俺の夕飯の心配はしなくて良いから、希望者とゆっくり話をしなよ。長続きするように」
 「そうね。長続きしないと身につかないものね」
 俺たちは取りとめもない事を話した。
 「純、そろそろ、少し横になった方が良いと思うわ。仕事でしょう。私、片付けておくから」
 「ありがとう。じゃあ、そうするよ」
 俺は仮眠を取りにベッドルームへ行った。
[PR]
by karura1204 | 2004-12-01 01:56 | 第二章 鬼灯
<< 7月30日 火曜日 1 7月31日 水曜日  >>