「ほっ」と。キャンペーン

カテゴリ:第五章 時の狭間( 13 )

12月24日 火曜日

 この日、俺は遅れて仕事へ行くことにした。ルカと区役所へ行くためだ。朝9時。役所が開くと同時に、俺たちは、尊や美里に立ち会ってもらい婚姻届を提出した。照れる俺たちを尊はからかい、美里は満足そうな顔をしていた。
 「ルカ、おめでとう」
 「美里姉、ありがとう」
 「純平、ルカのこと、頼んだわよ」
 「ああ」
 「おめでとう、純平。これからが大変だが、ふたりで頑張れよ」
 「ありがとう、尊。俺、何も出来なくて・・・」
 「良いんだよ。お前がルカさんと幸せになってくれれば、それで良いよ。じゃあ、俺は夕方の仕込みがあるから、帰るよ」
 「悪かったな、忙しい時に」
 「気にするな。お前等の為だ」
 「尊さん、ありがとうございます」
 「ルカさん、じゃあ、またお正月にゆっくりと話しましょう。美紀もルカさんに逢うのを楽しみにしていますよ」
 「はい。美紀さんによろしくお伝え下さい。私も楽しみにしていますと」
 「ええ、伝えます。じゃ、これで。美里、あと頼んだぞ」
 「わかっているわ、じゃあね」
尊を見送ると、俺たちは美里に気になった事を聞いた。
 「俺たちが、ふたり揃って役所に来て大丈夫なのか?」
 「ええ、今日は、秀樹のお披露目の為の準備と杏子達の結婚式の準備があるの。だから、みんなロイヤ ルホテルにいるわ。誰も、此処には来られないのよ」
 「お前は良いのか?」
 「私は良いのよ。居ても何もする事はないし、嫌がられるだけだから」
 「そうか、お前もある意味大変だな」
 「良いのよ、もう慣れっこだから。それに何だかんだ言って、店の資金を出してもらっているから、それで充分だわ」
 「美里姉、本当にありがとうね」
 「礼は良いのよ。ルカが幸せになってくれたら、私は満足なのよ」
 「でもな、美里、お前の親父、ルカの事諦めていないんだろう?大丈夫なのか、ルカが今日の席に居なくても」
 「大丈夫よ。もし、ルカの事を話すなら、お披露目当日か、杏子の結婚式当日だからね。その時に爆弾発言しようって魂胆なのよ」
 「ところで、美里姉、それ誰の情報なの?」
 「恭一兄貴」
 「え!恭一さん?」
俺とルカは、顔を見合わせた。
 「そう。恭一兄貴。ビックリした?」
 「ええ」
 「どういう事だ?美里」
 「恭一兄貴、家を出るつもりなのよ。兄貴も嫌だったんでしょうね。あの家。今まで、恩があるからと黙っていたけれど、耐えられなかったんだと思うわ。何時だったか、兄貴が話してくれたのよ。いずれ出て行くって」
 「そうだったの・・・・・」
 「まあな、あとを継ぐために養子になったのに、跡継ぎが出来たから、お前は要らないよって宣告されてきたようなものだものな」
 「恭一兄さんも可哀想ね」
 「ああ、そうだな」
 「気にしないの。兄貴は、兄貴で上手くやっているから」
 「わかった。ごめん、俺も仕事に行くよ。明後日が稼働日で、一番忙しい時だから。美里、あと頼むよ。ルカ、ごめんな。一緒に居られなくて」
 「良いのよ。仕事頑張って」
 「ああ」
 「純平、任せておきなさい」
 「頼んだよ、じゃ」
 「行ってらっしゃい」
 俺はふたりに見送られ顧客の所へ行った。明後日の稼働日まで何もない事を俺は祈りながら。その頃、ルカと美里は、何やら俺に内緒の相談をしていた。

 「美里姉、この後どうするの?」
 「うん、仕事に出ようと思っているけれど、どうしたの?」
 「もし、特に契約とかがないのなら付き合って欲しい所があるの?」
 「良いわよ。特にないから、店に電話して、和ちゃんに頼んでおけば済む事よ。でも、何で?」
 「あのね・・・・・」
 「どうしたのよ?」
 「ええ・・・あのね、病院に一緒に行って欲しいの」
 「病院?」
 「ええ」
 「あ、まさか・・・ルカ、そうなの?」
 「まだ、解らないの。だから・・・・駄目かな?」
 「良いわよ。でも、純平には言ったの?」
 「まだ。だって、解らないでしょう」
 「そうか。じゃあ、早いところ行ってみよう。ね。何処か知っているの?」
 「マンションの近所にあるわ」
 「解った」
 私たちは、マンションの近くにある個人病院へ向かった。病院へ行く間、美里姉は、ずっと手を握っていてくれた。私は、不安だったけれど、姉が握ってくれていた手に勇気を貰った気がした。
 病院でみて貰う。ちょっと恥ずかしかったけれど、医者から告げられた答えは、妊娠2ヶ月だった。
待合室に行くと、
 「どうだったの?」
 「2ヵ月だって」
私は、母子手帳を姉に見せた。姉は自分事のように喜び抱きついた。
 「ルカ、おめでとう。大事にしなさいよ。純平にすぐ知らせなさいよ」
 「待って、帰ってきたら話す」
 「馬鹿ね、何時帰ってこられるか解らない純平を待っていてもしょうがないでしょう。早く知らせてあげなさいよ」
 「でも、そうしたら、純はきっと家に帰りたくなるでしょう。仕事の邪魔はしたくないの。だから、お願い。まだ黙っていて。私から話すから、ね。美里姉」
 「もう、しょうがない娘ね。でも、まあルカの言う事も一理あるか。解ったわ。黙っていてあげる」
 「美里姉、ありがとう」
 「でも、早いところ話して、保健とかの手続きしてもらうのよ。良いわね」
 「ええ、解っているわ」
 私はその日、真新しい母子手帳を抱きしめる思いでマンションへ美里姉と帰った。心配した美里姉は、家に泊まると言ってくれたけれど、私は断った。ひとりで幸せをかみ締めたかったから・・・・・
 夕食を一緒にとり、美里姉が帰った後、私は祈った。この幸せが続くように、純の仕事が順調に運ぶように、神に祈った。
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by karura1204 | 2004-12-01 01:29 | 第五章 時の狭間

12月26日 木曜日

 今日は、システムの稼動日。朝から、顧客の所へ出向き、新システムのスイッチを入れる。この日のために、追い込みで、何度もテストをしてきた。何も問題はない筈だ。緊張が全員に走る瞬間。顧客が、新システムを使っての作業を開始した。PC画面を文字が走り出し、システムが動き出す。エラーは・・・・出ない。次のシステムが作動するエラーは出ない。次々にシステムが動き出す。最後の移行が終わり、システムは完全に動き出した。エラーは全く起きなかった。そこに居た全員に安堵の表情が浮かび、やがて拍手が沸きあがった。
 「佐藤さん、良かったですね。ありがとうございます」
顧客のシステム主任が握手を求めてきた。
「いえ、こちらこそ。ありがとうございました。また、次もよろしくお願いします」

 その場に、振舞い酒が用意され、俺たちは、乾杯をして帰社した。
 帰社すると、ご苦労さん会の準備に入った。翌日の納会と一緒に行う為だ。その日にやっても良いのだが、2連チャンよりは、みんなの負担も軽くなる。俺は、ルカに電話をした。
 「ルカ、仕事、上手く行ったよ」
 「おめでとう。良かったわね」
 「ああ。ありがとう。それで、明日、帰るよ。ごめんな。今日は、残務整理を終わらせておきたい。年末年始ゆっくりしたいから」
 「良いわよ。気にしないで、待っているわ」
 「ありがとう。じゃあ」
 「あ、純」
 「何?」
 「ううん、何でもない。気をつけてね」
 「ああ、じゃあね」
 「ええ」
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by karura1204 | 2004-12-01 01:28 | 第五章 時の狭間

12月27日 金曜日

 午前中は、社内の大掃除をして、午後は盛大な納会になった。今年は、久しぶりに社内の大ホールに集まった。先ず、社長の挨拶に始まり、乾杯、納会にしては珍しく、組合委員長の挨拶、そして、ビンゴゲーム等が行われ、社内のムードは最高潮だった。みんな、美酒に酔い、ゲームに興じ、一年の締めくくりは何事もなく終わった。
 俺は、ビンゴゲームでワインとワイングラスが当たり、それをみあげに家に帰った。

 「ただいま」
 「おかえりなさい」
 「はい、おみあげ。納会のビンゴゲームで当たった」
 「良かったわね」
 「ワインとワイングラスのセットだ」
 「そう、じゃあ、ワインはお正月に尊さんの所へ持って行きましょうよ」
 「そうだな、そうしよう」
 「疲れたでしょう。お風呂入れば。沸いているわよ」
 「ありがとう。そうするよ」
 「着替え、もって行くわ」
 「ああ」
 俺は、久しぶりにゆっくりと風呂に入った。とにかく気分が良かった。次期システムもほぼ確約を取り付け、ルカとの生活も順調に行き、満足していた。これ以上の幸せはないと確信していた。
風呂から上がると、ルカは、改まった顔で俺を待っていた。
 「純、おかえりなさい」
 「さっき言ったろう?」
 「ええ、でも・・・これからもよろしくお願いします」
 「どうしたの?改まっちゃって・・・」
 「だって、婚姻届を出してから、初めてふたりきりなんだよ」
 ルカに見詰められて俺は、ドキドキした。確かにそうだ。もう、今までの恋人気分ではないのだ。俺は照れくさかったが、
 「ルカ、俺の方こそよろしく頼むな。忙しくて放ってばっかりかも知れないけれど・・」
そう言うと、ルカを抱き寄せた。
 「淋しかったろ。ごめんな」
 「大丈夫。それより、見て。お餅飾って、注連(しめ)飾り作ったの。玄関気付かなかった?」
 「ああ、ごめん。駄目だな、俺」
 「駄目じゃないわ。そう、御節もね、今から作るの。純も手伝ってね」
 「勿論だよ。で、何を作ったの?」
 「まだ何も作ってはいないわ。買い物するリストを作っているところよ」
 「そうか。じゃあ、一緒に買出しに行こう。リスト見せて」
 「ええ」
 俺たちは、買出しのリストを作りながら、正月の準備に取り掛かった。そして、その夜俺は、久しぶりに夕食を作ってルカに出した。ルカの喜ぶ顔がみたくて・・・・
 「明日は、煮豆と煮しめを作ろう。手間が掛かるからね。数の子やいくらはアメ横まで買いに行こうか?どうする?」
 「ええ、行って見たいわ」
 「じゃあ、明後日行こう」
 「楽しみだわ、アメ横。思う存分値切るわ。私」
 「おいおい、程ほどにね。と言っても、君の事だから、まあ、好きにしなよ」
 「ええ」
 「よし、珈琲淹れるか」
 「待っていたわ」
 「とびっきり美味いの淹れるからな。待っていろよ」
 「ええ」
俺は、丁寧に淹れた。ルカの視線を感じながら・・・・
 「はい、出来たよ」
暫く、ルカはカップを見詰め、両手で抱えながら口に運んだ。
 「ああ、美味しい」
 「良かった」
 俺は、ルカを見詰めながら、珈琲を飲んだ。ルカは、俺の視線を感じて瞳を上げる。微笑み絡み合う瞳、
 「おいで」
 俺たちは、魔物がすぐそこまで迫っている事も知らずに、永遠の愛が約束されていると信じ愛し合った。
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by karura1204 | 2004-12-01 01:27 | 第五章 時の狭間