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カテゴリ:第六章 冬の花火( 25 )

冬の花火

この手すり抜け君は去った
希望と言う名の心は
ガラス玉が粉々になるよう
無残にも砕け散った
張り詰めた空気を切り裂き
天に昇った君
あの日ふたりで見た冬の花火のように
儚く 美しく・・・・・
何故?問いかける心虚しく
君は天を飾る星のひとつに戻った
俺は地上から君を見上げるだけ
君の笑顔を想いながら・・・・・
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by karura1204 | 2004-12-01 01:26 | 第六章 冬の花火

2003年 1月1日 水曜日

 除夜の鐘が鳴り、新しい年の幕が明けた。
 「新年おめでとうございます」
 「今年もよろしくお願いします」
俺たちはお互いに挨拶を交わした。
 「ふたりで始めての新年だな」
 「そうね。でも・・・・実は、ふたりじゃないんだ、本当は」
 「え?何それ?」
 俺は、ルカが何を言い出したのか理解出来なかった。だから、不思議そうな眼差しをルカに向けた。
 「あのね」
 ルカは恥ずかしそうに一言そう言うと、無言で俺の前に小さな手帳を差し出した。俺はそれを受け取り、表紙に目を落とした。次の瞬間俺は声を無くした。表紙に書かれた文字に吸い寄せられてゆく。心臓の高鳴りが聞こえ、俺はルカを見詰める。
 「・・・・・・」
 なんと言っていいのかわからず、ルカを見つめることしか出来なかった。最初に口を開いたのはルカだった。
 「ごめんね、黙っていて」
 「いや、その、あ・・・・」
 「ビックリしたよね」
 「ああ」
 「嬉しくない?」
 「いや、そんな事はない。嬉しいよ。うん、嬉しい。ただ、どう表現して良いか解らないんだ。で、何時解ったの?」
俺は言葉が見つからず、訳の分からない事を口走っていた。
 「婚姻届を出した日。美里姉に頼んで、一緒に病院へ行ってもらったの」
 「そうか、美里は知っているのか」
 「ええ、すぐに言いなよって言われていたけれど、ずっと言いそびれちゃった。純、仕事が忙しかったでしょう。そんな事もあったから」
 ルカは、照れくさそうに俯き加減で言った。
 「ルカ、大丈夫だったのか?重いものを持ったり、寒い中、歩いたりして」
 「大丈夫よ。病気じゃないもの」
 「でも・・・」
 「来年は、新しい家族とお正月を迎えられるわね」
 「ああ、ルカ、良かった。おめでとう。会社に早速言うよ。結婚した事と子供が出来た事。保健とか色々あるからな」
俺はルカをそっと抱きしめた。
 「ありがとう」
 「礼を言うのは、俺の方だ。ありがとう。そうだ、尊に電話しなきゃ」
俺は興奮して、ダイアルした。
 「尊」
 「おお、純平、新年おめでとう」
 「ああ、ありがとう」
 「は?」
 「あ、違う、そうじゃなくて、俺、その・・あー」
 「どうした?ルカさんに何かあったのか?」
 「いや、違う、俺・・・・親父になる」
 「本当か?」
 「ああ、今、ルカに聞いた所だ」
 「そうか、おめでとう。良かったな」
 「ああ・・・・・」
 俺は、その先の言葉が出なくなり、受話器を握ったまま立っていた。ルカが受話器を受け取ってくれると俺は、ベランダに出て「ヤッタ~!」と叫んでいた。
 「尊さん、すみません」
 「良いですよ。あいつ相当嬉しいでしょう。解りますよ、その気持ち。あ、身体大事にして下さいね。ちょっと待って、美紀が代わるそうです」
 「ルカさん、おめでとう」
 「ありがとうございます」
 「心配な事があったら、何でも聞いて。いつでも電話ちょうだい」
 「はい」
 「純平さん、きっと今は、嬉しすぎて言葉にならないと思うわ」
 「ええ、そうみたいです」
 「じゃあ、明日待っていますね」
 「はい。明日よろしくお願いします」
 「純平さんにもよろしく。おめでとう」
 「ありがとうございます。じゃあ、おやすみなさい」
ルカが受話器を置いたのを確認すると、俺はルカを呼んだ。
 「ルカ、おいで」
 「何?」
 ルカがベランダへ出てくる。空には、新年を祝う冬の花火が見えた。俺は、ルカの肩を抱いて月並みだが、
 「ルカ、ありがとう。俺、頑張るから。お前と、俺たちの子供のために・・・」
と言った。
 「お礼を言うのは私だわ。純、ありがとう」
 「そうだ、名前考えなきゃ。両方の名前考えような。本も買おう。それから、親父たちの墓に報告にも行かなきゃな」
 「そうね。お父様もお母様も喜んでくれるわね」
 「ああ。抱かせてやれないのは残念だけど、きっと見ていてくれるもんな」
 「ええ、きっと」
 「寒いよな、中へ入ろう」
 「ええ」
俺は部屋へ入るとルカを抱き上げ、ベッドへ運ぶとお腹を触った。
 「ここにいるんだ。俺たちの子供・・・・」
 「ええ」
 「で、いつ生まれるんだ?」
 「予定では、8月の13日ですって」
 「じゃあ、ルカと同じぐらいになる可能性もあるんだ」
 「そうね」
 「親子で、同じ日って言うのも良いな」
 「ええ」
 「ルカ、嬉しいよ、俺。ルカ・・・・」
俺は、ルカのお腹に耳を当てた。
 「まだ、何も聞こえないわよ」
 「いや、聞こえるよ。ルカ、君の鼓動と一緒に感じるよ、子供の鼓動がね」
 「気が早いわ。純」
 その夜、上がった花火は、新年を迎えた喜びが満ちていた。それは、自分達の明るい前途を祝すものだと俺は思っていた。しかし、俺たちの未来を祝すものにはならなかった。
 ただ、目の前の喜びを俺たちは感じ、会話を楽しんで眠りに着いた。この後、訪れる悲劇を夢にも思わず・・・・・
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by karura1204 | 2004-12-01 01:25 | 第六章 冬の花火

1月2日 木曜日

 翌日、俺たちは、新年のパーティーの為、美里を乗せ尊の店へ向かった。リアシートでは、美里が妹の幸せを願う姉の顔でルカを見ていた。馬鹿話をしていたはずが、いつの間にかルカの妊娠の話になって、俺は美里に叱られてしまった。
 「そうだ、ルカ、やっと純平に言ったんだって」
 「ええ」
 「純平、あんた少しは、考えて家に帰りなさいよ」
 「解っているよ」
 「いいえ、純平は、何かに夢中になると、周りが見えなくなるから、小まめに電話入れるとかしなさいよ」
 「はいはい」
 「美里姉、そんな小姑みたいに言わなくても・・・・」
 「あら、私は、ルカのために言っているの。何て言っても、私は純平の義姉でもあるんですからね」
 「だからって・・・・」
 「良いよ、ルカ。美里、気をつけるから。ちゃんと連絡するよ」
 「解れば良いのよ」
 「ほら、もう着いたよ、降りろ」
 「先に挨拶しているわね」
 「頼むよ」

 「新年、明けましておめでとう!」美里が、上機嫌でドアを開け、続いてルカが入る。俺はその後からゆっくりと入って入った。
 「おめでとう。純平さん、ルカさん、ちょっと来て」
 俺たちは、そう美紀ちゃんに言われ奥の部屋に行く。すると、壁に掛けてあったウエディングドレスとタキシードを見せられ、「さあ、ふたりとも着替えて」と言われたのである。何の事か解らないでいると、尊と美里がやってきて
 「良かったわね、ルカ。披露宴ここでやるんでしょう。美紀ちゃんが、着せてくれるって」
 「美紀が、どうしてもルカさんに着せたいって言うんだ。着てやってくれないか」
俺たちは、顔を見合わせた。
 「気持ちは嬉しいけど・・・・」
 「何言っているの純平さん、女性にとって、ウエディングドレスは夢なのよ、着せてあげて。私と尊のお古だから、デザインとかは気に入らないかも知れないけど、記念だからさ、着てちょうだいよ。ルカさんだって、やっぱり着たいでしょう」
 「それは・・・・・」
 「純平、ふたりで着なさいよ。美紀ちゃんの想いも解るでしょう」
 「純平、着てやれよ」
 「純、そうしましょう。ね、駄目?」
 「いや、駄目なわけないよ。ありがとう、美紀ちゃん」
 俺たちは、美紀ちゃんの想いを受け、着る事にした。ウエディングドレスに着替えたルカは、まばゆいばかりに輝いていた。俺は照れながらも
 「ルカ、綺麗だよ・・・」
と言った。
 「ありがとう。純も素敵よ」
 「ルカ、良かったわね。私嬉しいわ」
美里が涙ぐんでいた。
 「さあ、行きましょう」
と、美紀ちゃんは子供にベールを持たせ、店に向かった。俺は、また照れながらルカをエスコートした。
俺たちが店内に行くと、いつの間に来ていたのだろう、仲間たちが待っていた。そして、信のペットが響き渡り結婚協奏曲が流れた。紙吹雪が舞い、みんなの祝福を受ける。ルカは驚きと感激で涙を浮かべた。俺も驚いた。
 「純平、ほれ、俺が作ったケーキだ。ふたりでカットしろよ」
尊に、ナイフを渡され、俺たちはケーキを切る。一斉にクラッカーが鳴り、
 「純平、ルカさんおめでとう!」
と書かれたくす球が開く。すると、真二がおもむろに立ちあがり、
 「それでは、誓いのキスをどうぞ!」
 そう言ったものだから、やんやの野次が飛び交った。俺たちは、照れまくってキスをした。拍手と祝福の嵐の中、俺は、こいつらと仲間で良かったと思った。こんな風に祝ってくれる仲間がいる事が、俺の宝だ。
 そうして、宴会は日暮れまで続いた。仲間は、冷やかしながらも、俺たちを応援してくれていた。俺は、ひとりひとりに握手をし、尊が作ったケーキを手渡しして別れた。感謝などと言う言葉では表せない熱い想いを俺とルカは感じていた。

 みんなを見送ると、尊が俺を呼んだ。ルカは美紀ちゃんに呼ばれ美里と奥へ行った。
 「純平、今日は泊まって行け。ルカさんに運転させるなよ」
 「ああ、解っている。今日はそのつもりで来たよ。美里もそのつもりだ」
 「そうか、美紀に言っておかなきゃな。美里の事は頭数に入っていなかっただろう」
 「悪いな」
 「お前が謝る必要はない。いくら義理の姉になるとしても、美里は美里だ」
 「まあな」
 「お~い、美紀」
 「何?」
 「美里も泊まるぞ。用意してやって欲しい」
 「解っているわよ」
 「なんだ、そうか」
俺は笑った。
 「美紀ちゃんの方が、上手だな」
 「まあな。お前の所もいずれそうなる」
 「いや、もうなっているよ」
 「そうか。まあ、良かったな。純平、まだまだ安心できないかも知れないが、頑張れや。俺で出来る事があれば何でもするからな」
 「ありがとう」
 その夜、尊とふたり、酒を酌み交わしながら学生時代に戻って、飲み明かした。俺は、この幸せの中に酔っていた。
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by karura1204 | 2004-12-01 01:24 | 第六章 冬の花火

1月3日 金曜日

 尊の家からの帰り道、俺たちは墓参りに行った。親父とお袋に報告するためだ。
 「和尚、新年明けましておめでとうございます」
 「おお、おめでとう。新年早々墓参りとは、何か良い事でもあったかな?」
 「ええ、俺も、親父になります」
 「ほおぉ、そうか。それはめでたい。ルカさん、良かったのう。大事にするんだぞ」
 「はい。ありがとうございます」
 「よしよし、線香上げておいで」
俺たちは親父たちの墓へ行くと、報告をした。
 『親父、お袋、俺も親父になる事が出来るよ。本当は俺の子供を抱かせてやりたかったけど、でも、見ていてくれよな。俺、絶対ルカと幸せになるから。頼むな。そうだ、後さ、俺もしかしたら部長になるかもしれない。何だか、色々良い事が続いて怖いくらいだ。躓(つまづ)かない様に見守ってくれよ、な。親父、お袋・・』
ルカも隣で祈っていた。そうして暫く墓の前にいた。すると和尚が呼びに来た。
 「そろそろ、雪が降りそうだ。部屋に入って暖まりなさい。風邪を引いたら大変だぞ」
 「ありがとうございます。純、お言葉に甘えて中へ入れていただきましょう」
 「そうだな。和尚、よろしく」
 俺たちは、和尚に家で、暖まりながら色々と話をして家に帰った。その途中、和尚が言ったように雪がちらついた・・・・・
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by karura1204 | 2004-12-01 01:24 | 第六章 冬の花火

1月6日 月曜日 1

 「今日、会社に届けを出しておくよ。今月中には保健証とか出来てくると思う。もし、何か言われたら、この番号を言って事情を説明して」
 「解ったわ」
 「じゃ、行ってくるね」
 「いってらっしゃい」

 新年最初の出社日。俺は、会社に結婚した事と妊娠した事を告げ、手続きを総務に依頼した。やがて、年頭の社長挨拶が始まった。そこへ、蛭田常務と家田統括部長が俺の所へ青い顔をしてやってきた。
 「佐藤君」
 「おめでとうございます。本年も・・・・」
 「挨拶は良い、それより大変だ」
 「どうか・・・・・?」
 「どうかじゃないよ、君。西園寺家のご令嬢と入籍したそうじゃないか」
 「君は、西園寺家のご令嬢とやはり付き合っていたのか?」
 「それには訳がありまして、私もルカが西園寺家の人間だと知らなかったのです」
 「そんな事はないだろう」
 「いえ、本当です。ルカ、いえ伽瑠羅が美里の妹だったことを知ったのは、家田統括とお話した後なのです。それを知って、私も驚いたのです」
 「じゃあ、なぜ入籍した?」
 「それはルカと一緒になりたかったからです」
 「今すぐ別れるんだ」
 「蛭田常務、今、何と仰ったのですか?」
 「別れろと言ったんだ。婚姻無効の手続きを取るんだ!」
 「どうして?何故そんな横暴な事を」
俺は声を荒げた。
 「佐藤君、落ち着いて聞いて欲しい」
 「家田統括、こんな無謀な事を言われて落ち着くことは出来ません」
 「大船駅前の再開発の伴う、100億の商談に白紙撤回要求がきた。それと、君が今、商談中の継続プロジェクトはK社に決まった」
 「何ですって!」
 「もし、君が婚姻無効の書類に判を押せば、商談は白紙撤回を免れる」
 「汚い、汚すぎる」
その時、携帯が鳴った。俺は、切ろうとしたが、妙な胸騒ぎを覚え、電話に出た。
 「美里、ごめん、今・・・・」
 「純平!大変、ルカが連れ戻されたの、早く私のマンションに来て!」
 俺は、はじかれ、飛び出した。家田統括や蛭田常務の呼びかけも、もはや耳に入らなかった。何故?どうしてこんな時に・・・・俺の頭は真っ白になっていた。車に飛び乗ると、美里の家に行く。美里を乗せ、連れ去られたホテルへ向かった。
 「一体、どうしたんだ?」
 「私にも良く解らないのよ。さっき恭一兄貴から電話があって、ルカがホテルに連れて来られているけれど何かあったのか?って。私、ビックリして、純平に電話したの。その後、尊たちには電話しておいたわ。みんなホテルに来てくれる」
 「そうか・・・・」
 俺は考えた。きっと、ゴミでも出しに行った時に狙われたんだ。早朝と言う事もあり油断した。それに、いつもなら、走って逃げられるが、今は一番危険な時だ。走るに走れなかったに違いない。と言う事は、向こうはそれを知っているのかも知れない。
 「美里、届けを出した日、誰かに見られていたんじゃないか?」
 「そんな筈はないと思うの。恭一兄気が嘘を付くとは思えないし・・・・・誰かを雇っていたなら辻褄は合うけれど・・・・・」
 「そうだ、俺の会社に連絡をしてくれ。何も言わず飛び出してきてしまった」
美里は、俺の会社に電話をすると、上手く事情を説明してくれた。
 「ありがとう。美里、西園寺の提携会社はどれくらいある?」
 「さあ、私では解らないわ」
 「そうか・・・・・」
 「どうしたの?」
 「いや、お前の親父、汚い手を使ってきたよ。俺の会社に圧力を掛けてきた。俺とルカの婚姻を無効にする書類に判を押さなければ、商談を潰す気だ」
 「本当?」
 「ああ、今その話をしていた。そこへお前からの電話だ」
 「あのくそ親父!」
 ホテルの前に着くと、次々に西園寺家の人間が集まってくるのが見えた。知った顔もいれば、始めて見る顔もいる。美里は、ひとりひとり名前を教えてくれたが、全部は覚え切れなかった。美里は、恭一さんに電話を掛けると、車に呼んだ。
 「兄貴、ルカは何処の部屋?」
 「まあ待て。純一さん、お久しぶり、今回は・・・」
 「お久しぶりです。で、ルカは」
 「ええ、最上階のスイートにいます。部屋Noは。1027。入り口と中には其々二名ずつメイドが立っています。他に誰がいるのかは、ちょっとわからないのですが」
 「ありがとうございます」
 「美里、俺は一度戻る。怪しまれては困るからね。純一君、また後で」
 「すみません」
 「何か手を考えなきゃな」
 「ええ、でも、尊たちが来てからの方が良いわ」
 「誰が来るかな・・・・」
 俺たちは、その場で尊たちが来るのをじりじりとした思いで待った。そして、二時間後には、尊が声を掛けた全員が集まった。俺は、その多さに驚きを隠せなかった。
 「純平、どうだ」
 「ああ」
 「時間は掛かったが、必ず役に立つ人間に声を掛けたからな」
 「ありがとう」
 俺は胸が熱くなった。だが、感傷に浸っている暇はない。とりあえず、ホテルが見渡せる場所に移動すると、作戦を考えた。今日は、招待客中心の集まりだ。全員でぞろぞろ行くわけには行かない。美里はフリーパスだとしても、その外の人間は難しい。刻一刻と、お披露目の時間は迫ってくる。それまでにルカを助け出さないと・・・俺は焦った。だが、作戦と言っても何をどう出来るか解らないでいた時、美里の携帯がなった。恭一さんからだった。
 「美里、純一君と代わってくれ」
 「純平、兄貴、代われって」
 「はい、代わりました」
 「すまん、親父が変な要求したろう。今解った。それで、ここに来て欲しい。親父が呼んでいる」
 「お父さんが?」
 「ああ、判を押せということだろうが・・・・」
 「解りました。すぐにとは言えませんが、伺います」
 「来る前に電話を掛けてくれるかい」
 「はい」
俺は電話を切り、美里に返す。
 「兄貴、何だって?」
 「婚姻無効の書類に判を押しに来てくれと西園寺さんが呼んでいるそうだ」
 「行くの?」
 「ああ、行くことは行くよ。でも、判は押さない」
 「純平、ひとりで行くなよ。お前ひとりでは心配だ。俺も連れて行け。良いな」
尊が言う。
 「そうだな、あっちが何人居て、どんな手を使うか分からんから、ひとりでは危険だ。そうだ、純平、お前と美里、尊に碧、それから真二、そして俺で行くのはどうだ。立会人としては申し分ないと思うが?」
と峻が提案した。
 どういう人選なのよ?」
美里が聞いた。
 「純平と美里は当然だろう。碧は医者だし、真二は弁護士だ。そして俺は刑事。何があっても大丈夫だ」
 「尊は?」
 「コイツは、純平が早まった行動に出ない為だ」
 「確かに良い人選だな」
と真二が言った。
 「向こうも弁護士を用意しているだろうから、理論武装されたら俺が相手になるよ、純平」
 「悪いな、みんな」
 「気にするな」
 「後の人間は、ここで待っていてくれ。何かあったらすぐ電話するから、頼んだぞ」
 「解った」
 「そうだ、いつでも車を出せるように、誰かそっちも頼むよ」
 「じゃあ、二班に分けよう。信と貴司は車に居てくれ、俺と誠がここに残るよ、良いだろう?」
 「ああ、良いよ、アキラ」
 「みんな・・・・すまない」
 「良いんだよ、純平、行動開始だ!」
 「ああ、じゃあ、美里、恭一さんに電話してくれないか」
 「解ったわ」
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by karura1204 | 2004-12-01 01:23 | 第六章 冬の花火

1月6日 月曜日 2

 俺たちは、ホテルの最上階へ向かった。其々の想いを込めて・・・・・
 ドアの前には恭一さんが待っていてくれた。
 「純一君、そちらは?」
 「立会人として来てくれた私の友人たちです。彼は医者で、深大寺(じんだいじ)碧(みどり)、こっちは弁護士の丸山(まるやま)真二(しんじ)、彼は刑事をやっている高木(たかぎ)峻(しゅん)、そしてこっちはビストロ沙紗(さしゃ)のオーナーシェフ林尊です」
 「そうですか。解りました。では、どうぞお入り下さい」
 恭一さんに肩書きを言った事は効果的だった。仕事人間には、肩書きが物を言う。だが、この場合、彼らの職業に大きな意味を持つことを、恭一さんは受け取ってくれたのだ。
 俺たちは、恭一さんの後に続き中へ入った。
 「父さん、純一君です」
 「そうか・・・・・おや、これはまた大勢でお見えとは、力に任せルカを連れ戻しに来ましたかな?」
 「はい、連れ戻しに来ました。それ以外はありません」
 「と言うと、判を押す気はないと言う事かね?」
 「はい」
 「君の会社がどうなっても良いのかな?」
 「はい」
 「ほほ・・・・君が今まで手がけてきた仕事も、途中で投げ出してもルカを選ぶと言われるのかな?」
 「はい」
俺は、西園寺家の頭首を睨み付け、きっぱりと言った。
 「許しを得ないで、勝手に入籍しておいてもか?」
 「はい、その点は申し訳ないと思っています」
 「純平、謝る事はないわ。お父様は、例え許しを貰いに来たとしても、誰にもルカを嫁がせる気はないのだから」
 「美里、お前か、ルカを唆(そそのか)したのは」
 「そうよ」
 「まあ、良い。それで君も、美里に唆されて、ルカと入籍したのだろう」
 「いいえ、違います。私はルカを愛しているから一緒になりました。私の意志でルカをこの家から解き放ってやりたいと思ったから一緒になりました。いけませんか」
 「ふん、小ざかしい。ルカはこの恭一と結婚して秀樹を助け、西園寺家を護るのだ」
 「いいえ、父さん。僕はルカと一緒にはなりません」
 「恭一何を言う」
 「今日、はっきりさせましょう。僕はこの家を出ます。後は秀樹と杏子と仁で良いでしょう。僕は純一君とルカが一緒になった事を心から喜んでいます。父さん、ふたりを裂くためにあなたがしている事は犯罪だ。僕はもう、あなたには着いて行けない。さあルカ、おいで」
恭一さんは続き部屋を空けるとルカを中へ招き入れた。
 西園寺家の頭首、一馬氏はわなわなと身体を震わせ、怒りのために声も出せないでいた。
 「純一君、すまなかったね。さあ、ルカを連れて帰ってくれ。君の会社の事は僕が責任をもって処理しよう。安心してくれ」
 「ありがとうございます」
 「この書類は意味がない。父さん、破棄するよ」
そう言うと恭一さんは書類を破り捨てた。
 「さあ、早くここから帰りなさい」
 「はい」
俺たちは、全員気抜けし、帰ろうとドアに向かった。その時だった。怒りに震えていた一馬氏が
 「待て!勝手な事はさせん」
 そう叫び、近くにあった花瓶を取ると振り上げ恭一さん目掛けて振り下ろした。恭一さんは一瞬よろけたが、その手を払いのけた。体制を崩した一馬氏だったが、今度は、俺の腕を掴み、何処にそんな力があったのかと思う力で引き倒し、花瓶を投げつけた。
 周りの誰もが慌てた。緊張が解け油断をしていたために判断が一歩遅れたのだ。投げつけられた花瓶を俺は避けたが、慌てたルカが、俺に覆いかぶさるように前に飛び出してしまったのだ。そして、間の悪い事に、ルカのお腹目掛けて一馬氏の蹴りが入ってしまった。
 「ルカ!」叫んだ俺の声に驚き、尊が一馬氏にタックルをしたが遅かった。ルカはお腹を押さえ、蹲る。
 「碧、ルカは妊娠しているんだ」
 「まずい、救急車、いや間に合わん。美里、あいつ等に電話だ」
俺は、一馬氏に殴りかかった。
 「純平、殴るな!お前も障害で逮捕されたいか。尊、純平を押さえていろ。西園寺一馬、障害の現行犯で逮捕する」
 峻は警察手帳を見せ、一馬氏に手錠をかけた。驚いたのは一馬氏だった。まさか、警察がいるとは思わなかったのだから。
 「恭一さん、フロントに電話して担架を借りてください。それから、美里シーツでも何でも良いから取って来てくれ」
 大急ぎでフロントに電話をして、恭一さんは担架を頼んでくれた。その間、碧は、病院に電話をし、緊急手術と輸血の準備を頼んでいた。
 「純平、ルカさんの血液型は何型だ?」
戸惑う俺に美里が叫ぶ。
 「碧、O型よ」
 「解った。そうか・・・美里、仲間に声を掛けてO型を集めろ。病院の輸血用が足りないらしい」
 「解った」
 「担架が来ました」
恭一さんが声を掛ける。
 「そっと乗せて。なるべく動かさないように」
 碧の指示で、下へ運ぶ。その間も美里は仲間に電話を掛けている。だが、俺はルカの手を握ってやる事しか出来なかった。エレベーターが、下に付くのももどかしく、俺は次第に苛立って来た。隣に尊がいなければ、俺は、一馬氏をボコボコに殴りに行っていただろう。
 下で待っていた誠たちの車に乗せ碧の病院へ運ぶ。途中、渋滞も予想されたが、峻が手配してくれたようで、パトカーに先導され、病院までスムーズに行けた。しかし、ルカの出血はかなり酷いようだった。美里は、あれからずっと仲間に電話を掛けてくれている。下で待機していた仲間も一緒に電話を掛けてくれていたらしい。病院に着いた時には、かなりの仲間が待っていてくれた。
 ルカは、すぐに手術室に運ばれた。扉が閉まり赤いランプが点く。俺は、その前で祈った。祈る事しか出来なかったのだ。時を刻む音だけが妙に響いた。普段気にならない時計の音が、殊更大きく感じられたのだ。仲間が声を掛ける。尊が、代わって答えてくれる。その間、美里は恭一さんに電話をし、その後の事を聞いていたらしい。
 「純平、お披露目は中止。父は警察の留置所にいるわ。天罰よ。母がこっちへ向かっている。兄貴ももうすぐ来るわ。しっかりしてね」
 「ああ」
その時だ、看護婦が慌てたように
 「すみません、O型の人はいませんか?輸血用の血液が足りないようなので、協力できる方はお願いします」
集まってくれた連中が一斉に立つ。俺も立ち上がる。
 「俺もだ、俺の血を全部やって良い、だからルカを助けてくれ」
看護婦にしがみつくように言った。
 「とりあえずこちらへ」
と案内され、ベッドに横になる。
 「お気持ちは解ります。しかし、400CCまでしか取れないの。先生も患者さんも頑張っているし、他の方も大勢いるみたいだから、気をしっかり持って下さいね。あなたがしっかりしないでどうするの」
 看護婦に諭され、俺は頷くしかなかった。俺と仲間たちの採血が次々と手術室に運ばれてゆく。俺がそれを見届け、採血室を出るのと入れ替わりに恭一さんが入って行った。すれ違いざま、恭一さんは、無言で俺の肩を叩いた。何故だろう、その時、緊張の糸が途切れたように涙が零れた。頑張れよと言ってくれたのだが、言い様のない深い悲しみ、絶望、砂がすべる落ちる瞬間の様な寂寥感、切なさが身体中を支配したのだ。俺は、手術室の扉の前に駆け出し叫んだ。
 「ルカ!ルカ!ルカ!」
 今にも扉を叩き壊しそうな勢いで、扉を叩きながら叫んだ。いや、尊に止められなければ、壊していたに違いない。
 ふいに扉が開き、碧が出てきた。その顔は沈痛に歪んでいる。みんなの視線が集まる中、
 「碧、ルカは?」
 「純平、すまん、子供は駄目だった」
側にいた人間の嘆きの声が漏れた。
 「ルカさんもまだ、危険な状態だ。これからICUに移す」
 碧はそれだけ言うと、ICUへ向かった。俺は、その場にへたり込んだ。悔しさでどうにかなってしまいそうな気がした。そこへ麻酔で眠り、機械を付けられたルカが手術室から出てきた。俺は、ルカにしがみつこうとした。それを制したのは看護婦だった。
 「すみません。ご家族の方ですね」
 「はい」
 「すみませんが、事務処理をしていただきたいので、センターへ行ってもらえませんか?」
 「今ですか?」
 「ええ、なるべく。あなただけですか?他に何方かいらっしゃいませんか?」
 俺は、美里を手招くと、看護婦の相手をしてもらった。そして俺は、ICUへ向かった。集まってくれた仲間の対応は、尊がしてくれた。ICUに移った頃、峻はルカの母親を連れて病院へやってきた。
 「母さん、遅かったね」
 「ごめんなさい。警察の方へ呼ばれて行っていたの。恭一さん、それで伽瑠羅は?」
 「ICUに入った。子供がお腹にいたそうだが駄目だった。ルカ自身も、まだわからない」
 「そう」
 「純一君、ちょっと」
俺は声を掛けられた。
 「母さん、こちらルカのご主人だよ」
 「初めまして、佐藤です」
 「伽瑠羅の母です」
 俺と伽瑠羅の母親はそれだけ言うと黙った。お互い言わなければならないことはある筈なのだが、口を開けば罵り合いになってしまいそうな気がしたのだ。
 「純平、部屋の鍵を貸して。母子手帳と判子が必要なの。私取ってくるから」
美里が言って来た。俺は、鍵を渡した。
 「頼む。ルカの鞄にも、鍵はある筈だから、それも持って来て、それは、美里お前が預かっていてくれ」
 「解ったわ。じゃあ、急いで行って来る」
 「誰かに送ってもらえよ」
 「ええ、真二に行ってもらうわ」

 俺は、ICUの前でただひたすらルカが元気で目覚めてくれる事を祈った。ルカの笑顔が俺の支えなのだ。あの笑顔を取り戻せるなら、俺は何だってする。悪魔にだって心を売れると思っていた。
 「純平」
 「尊」
 「皆には帰ってもらった。全員でここに居ても仕方ないから、何かあったらすぐ来られる様にはしてある」
 「ありがとう」
 「いいさ、それよりお前も少し横になれ。看護婦さんが、ICUの隣の部屋を空けてくれた。今、恭一さんにも、声を掛けてきた」
 「ああ、ありがとう。でも、もう少しここにいるよ」
 「無理するなよ。お前が倒れたら、ルカさんが、一番悲しむからな」
 「解っている」
 「純平、尊」
 「峻」
 「俺、一度署に戻るよ。それで、真二が帰ってきたら、署に来てくれと言ってくれ。アイツにも証言してもらわなきゃならないからな。お前たちも来て貰うぞ」
 「ああ、解った。言っておくよ」
 「純平、辛いだろうが、頑張れ。俺が西園寺を極刑にしてもらうようにするから。だから・・・・・」
 「ありがとう、峻・・・・」
 「尊、後はよろしくな」
 「ああ」
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by karura1204 | 2004-12-01 00:23 | 第六章 冬の花火

1月7日 火曜日

 ルカが眠りについてから、1夜明けたが、目覚める気配すらなかった。麻酔はとうに切れているのだが・・・・

 俺はその日、産科医に呼ばれた。その話では、お腹を蹴られた衝撃で、子宮壁が壊れてしまったと言う事だった。ルカの意識が戻っても、次の子供が出来る可能性は、ゼロに近いと宣告された。俺は、その話をルカが目覚めた時、話さなければならないが、その勇気は全くなかった。何故なら、俺自身が、一番ショックを受けていたからだった。
 あの日、ふたりで喜びを分け合った時。ルカの笑顔と例えようもない嬉しさは、昨日の事の様に思い出せる。なのに・・・
 ルカ、ごめんよ。俺は、ICUに戻ると、開かない瞳にキスをした。
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by karura1204 | 2004-12-01 00:22 | 第六章 冬の花火

1月8日 水曜日

 美里がやって来た。
 「純平、少し寝ないと、身体が持たないわ。交代しましょう。何かあったら、すぐに起こすから、ね」
 「ああ・・・・」
 俺は、隣の部屋へ行き、ベッドに横になった。だが、眠ろうとすると、その時のシーンがスローモーションになって蘇ってしまい眠れなかった。だから、またルカのICUへ戻った。
 「美里、駄目だ眠れない」
俺は苛立ち、そう言い放つと壁を叩いた。
 「でも、横になっていて。それだけでも違うから。純平、ずっと寝ていないでしょう」
 「解っているよ。でも、眠れないんだ」
 「しょうがないわね。ちょっと待っていて」
美里は、何処かへ行った。そして、碧を連れて戻ってきた。
 「純平、これ飲めよ。睡眠導入剤だ。これで少しは眠れる」
 「悪いな」
 「気にするな。睡眠薬じゃないから、効きは弱いからすぐ目覚めるよ」
 俺は、ふたりの気持ちを汲んで、薬を飲むと、横になって少し寝た。だが、夢の中にまでルカが倒れたシーンが出てきて、俺は魘(うな)されて目が覚めた・・・・・
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by karura1204 | 2004-12-01 00:21 | 第六章 冬の花火

1月9日 木曜日

 峻が、検事を連れて病院へ来た。その時の事を色々聞かれたが、俺は答える事が出来なかった。答えようとすると、悔しさが先に立ち、一馬氏への恨みごとになってしまうのだった。結局、検事は何も収穫のないまま帰って行った。
 俺は、検事が来て話をした事で、段々自分自身を責め始めていた。ルカを救えなかったこと。いや、それ以前にルカを追い出さなかったことまでに及んだ。何故?何故?・・・自問自答することばかり頭に浮んでは、ルカの笑顔を思い出していた。
 病室の窓から見下ろす街並みは、冬の木枯らしが吹き寒々としていたが、新年の喜びに何処かしら浮き立っていた。俺の心とは裏腹に・・・・・
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by karura1204 | 2004-12-01 00:20 | 第六章 冬の花火

1月10日 金曜日

 あれから4日。まだルカは目覚めない。俺は、ルカに目覚めて欲しい気持ちと、まだ目覚めて欲しくない気持ちがあることに気付いた。俺は、ルカに伝えなければならない。残酷な問題があるのだ。その事が、俺の心に暗く、重い影を落としていたのだった。『ルカ、早く目覚めてくれ』そう祈りながらも、『もう少し時間が欲しい。俺の心が落ち着くまでの時間が・・・・・』と、俺はそのふたつの気持ちの間で揺れた・・・・
 そして、この時俺は、夢のことを思い出していた。あの夢が現実に起こった。いや、まだルカは生きている。死んではいない。だが、俺の胸には不安が充満していた。もやもやと、得体の知れないものが、身体を埋め尽くしてしまう。
 午後、恭一さんが来た。一馬氏の事や西園寺家の事を話してくれたが、俺にはどうでも良い事だったので殆ど聞いていなかった。ただ、一馬氏が起訴される事だけは、ルカに報告出来ると思っていた。
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by karura1204 | 2004-12-01 00:19 | 第六章 冬の花火