カテゴリ:第六章 冬の花火( 25 )

1月11日 土曜日

 ルカ、早く目覚めてくれ。でないと、俺はどうにかなってしまいそうだ。頼む、俺をひとりにしないでくれ。ルカ・・・・・ルカの笑顔が見える、しかしその笑顔が次第に歪んでゆく・・・・ルカ!俺は、叫んだ。
 「純平、どうしたの?」
美里が側に立っていた。
 「夢、見ていたのね」
 「ああ、そのようだ」
俺は、眠っているようで全く眠っていない。なのに、疲れるという感覚が無くなっていた。
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by karura1204 | 2004-12-01 00:19 | 第六章 冬の花火

1月12日 日曜日

 朝から、代わる代わる仲間がやってきて、俺に声を掛けて行ってくれた。だが、俺の気持ちはどうしようもなく、かえって仲間の顔を見ることが辛かった。だから、ふらりと病院の屋上に行っては、ひとり不安な心と戦っていた。
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by karura1204 | 2004-12-01 00:18 | 第六章 冬の花火

1月13日 月曜日

 それから、一週間、結局ルカは眠り続けた。それは、まるで目覚めるのを拒否しているかのようだった。
8日目の朝、ルカは目を開けた。だが、その目覚めは完全ではなく、俺に最後の言葉を残す、ただその為だけに目覚めたと言ってよかった。
 「純、いる?」
 「ルカ、気付いた?ああ、俺だよ」
 「純、私・・・夢を、夢を見ていたわ。とても温かい夢。純、手を握って」
 「ああ、握っているよ」
 「ありがとう。ねぇ、純、私を許してね。そしてお父様も」
 「ああ」
 「本当?」
 「ああ、本当だ」
 「良かった。純、覚えている?星を見たこと」
 「ああ」
 「また、見たいな」
 「見られるよ。連れて行くよ」
 「ありがとう。純の話してくれた星の話し、楽しかった。純、そう言うお仕事すれば良いのにね」
 「そうだな」
 「純、キスしてくれる?」
 「ああ」
俺は、ルカに軽くキスをし抱き寄せた。
 「ありがとう。純。ごめんなさいね。許して・・・・」
 「ルカ?ルカ?・・・・・ルカ!ルカ!碧、来てくれ、ルカがおかしい」
俺は、必死でナースコールを押し叫んだ。ナースと医者が飛んでくる。
 「どうしました?」
 「今、目を開けて、話したのに。話したのに・・・・・」
 医者は、脈を取り、瞳孔を調べ、心臓マッサージをしている。だが、心臓の音が段々小さくなっていっていた。回りは急に慌しくなった。美里が朝食を持ってやってきた。
 「純平、どうしたの?」
 「美里、今、話したんだ。ルカと。なのに、いきなり、何も喋らなくなった。ああ、ルカ。返事をしてくれ。今、話したじゃないか、ルカ、ルカ!」
俺は完全にパニックになり、ルカに縋った。医者は、首を横に振った。
 「純平、しっかりして。ルカは、今、天国へ旅立ったわ」
 「嘘だ!」
 「純平、しっかりして。お願い」
 「嘘だ!俺は信じない」
 「急変か」
碧が来た。
 「碧、ルカが、ルカ、今話したんだ。なのに、どうして天国へ行くんだ?な、碧、教えてくれ」
 「柏木、どうしたんだ?」
 「いや、わからない、彼が、患者と話したと言っている。が、俺が来た時にはもう・・」
 「純平、しっかりしろ。ルカさんは、最後にお前の所に会いに来たんだ。ルカさんもお前に会いたかったんだよ」
 「嘘だ、嘘だ!!」
 俺の声は、病室に木霊しては吸収された。叫んでも、叫んでもルカは、起きない。開けた筈の瞳を硬く閉ざし、微笑だけを残しそこに横たわっていた。
 美里が、あちこちに電話をしている中、俺は病室の隅で、膝を抱えるようにしていた。碧は、俺が自殺でもするのではないかと恐れ、側にいてくれた。
 やがて、尊と美紀ちゃんが来て、美里と一緒に事後処理を始めた。死亡診断書・埋葬許可証を受け取り、鎌倉の俺の菩提寺へルカを運ぶ手配をしている。そのふたりをぼんやりと俺は見ていた。ルカを失い脱け殻の様な俺だった。
 ルカの母親が恭一さんと来た。俺に目礼だけすると、美里達と一緒に手伝いを始めた。我が娘の死に際して、母は気丈に振舞うのだった。だが、それに引き換え、俺は・・・・
 みんなは、尊と美里の指示で、通夜の準備をするため、病院と寺へそれぞれに集まって来ているらしかった。病院へ来た者は、俺の憔悴しきった姿を見ると、声も掛けられずに尊の指示を仰いでいた。
 ルカを寺に運ぶ時間が来た。俺は、尊に言われるまま車に乗り、美紀ちゃんに付き添われ鎌倉へ向かった。
 物言わぬルカを乗せた車は、ふたりの思い出の道を通って行った。その道を通りながら、俺は、ルカと不思議な出会いをしたあの日からの、楽しかった日々の出来事が次々と映画のスクリーンを観るように蘇り、涙を止める事が出来なかった。だが、それは泣いていると言うより、ただ流れてくる何かをどうする事も出来ないでいると言った方が正しいのかも知れない。
 その同じ頃、警察に拘留されていた一馬氏の罪状が、過失傷害から過失致死になっていた。峻の話によると、過失とは言え、わが娘を殺した罪の意識が芽生えたのか、拘置所で泣き崩れたらしい。だが、遅すぎた。ルカも子供も、もう二度とこの手に戻ってこないのだ。
 俺は、寺に着き、和尚の顔を見た頃から、少しずつ落ち着きを取り戻していた。車の中で、なす術もなく流した涙の為だろうか・・・・
 「美紀ちゃん、悪かったね。子供たち、実家に預けているんだろう。もう、良いよ」
 「何言っているの。純平さん、そんな事気にしちゃ駄目。母もあなたの側にいてあげなさいって言ってくれているの。純平さんは、ルカさんの側についていてあげてちょうだい。細々したことは、尊がやるから。ね」
 「ありがとう。でも、俺も何かしなきゃ」
 「純平さんのすることは、ルカさんの側についていてあげることよ」
 そう言うと、仕出しや生花の手配をしに行った。そこへ入れ替わりのように和尚がやってきた。俺は、和尚を見上げながら何か言おうとしたが、言葉にはならなかった。
 「・・・・・・・」
 「うむ、何も言うな。生まれてこられなかった子供の分まで供養してやるからな。心置きなくそこに座っていなさい」
俺は黙って頭を下げた。
 「御仏は、無慈悲の慈悲をおぬしに与えておられるようじゃ。辛いかも知れぬが、乗り越えられよ」
それだけ言うと、和尚は庫裏へ戻った。
 俺は考えていた。ルカと話した事を・・・・あれは、俺の夢物語だったのだろうか?それにしては、あまりにもリアルな夢だ。今も、ルカの唇のぬくもりが残っている。一言一句思い出せる。
 祭壇に飾られたルカの写真を見詰め、俺は、心の中で問い掛けていた。『ルカ、君は、最後に俺の所だけに現れてくれたのかい』『ルカ、君は何を伝えたかったのだ?』
 俺の方が、君に許しを乞わなければならないのに・・・・俺は君を守れなかった。責められるのは俺だ。なのに・・・・・

 「純平」
 「尊、ありがとう。早かったな、着くの」
 「少しは落ち着いたか?」
 「ああ、少しな」
 「そうか。じゃあ、ちょっと良いか?」
 「ああ」
 「お前の会社から、誰か手伝いは頼むのか?」
 「いや、良い。誰にも頼まなくて。ルカの事を知っている者はいないからな。通夜と葬儀の日程だけ知らせてやってくれれば良い。総務の飯島と言う係長に伝えれば、後は流れる」
 「解った。通夜は明日、葬儀は明後日だ。葬儀の時の挨拶、考えておいてくれ。頼む。お前はそれだけやってくれれば良い」
 「ああ。ルカの母親、どうしている?」
 「今日は、帰ってもらったよ。してもらうこともないからな。かと言って、お前とここでふたりいるのも辛いだろう」
 「そうだな」
 「明日の午前中、ここへ恭一さんと一緒に来るよ」
 「解った。今日は、仮通夜だ。後で、ここへみんな集まってくれ。酒飲もう」
 「ああ」

 19時になった時、和尚が略袈裟を着けて本道へ来た。その頃には、殆ど作業も終わり、仲間もやって来た。和尚が、誰に聴かすでもなくゆっくりと、厳かに経をあげ始めた。すると、その場にいた人間は、みな、和尚の経に聴き入った。じっと、その場に座り、ルカの死を悼(いた)んでくれていた。俺は、ルカの遺影に向かって語りかけた。『ルカ、君の仲間だ。こんなに沢山。俺は、もっと、もっと仲間との思い出を作ってやりたかったのに。出来なくてごめんよ。ルカ』
 和尚の経は、闇の中に静かに響き渡っていった。やがて、経が終わると、和尚は祭壇に向かって深々と頭を下げた。そして、おもむろに、俺たちの方に向き直ると、また同じように頭を下げた。この和尚も、ルカを気に入っていた人だ。俺はまた、胸が熱くなった。
 和尚は、静かに庫裏へと帰って行った。それを潮に、美里達が酒の用意を始めた。
 「純平、あんた、朝から食べてないでしょう。少しで良いから、食べなよ」
そう言うと、美里が、俺の前に弁当を置いた。
 「ああ、解った。ありがとう」
 俺は、あまり食欲はなかったが、少しでも食べないとみんなに心配をさせてしまうと思う余裕が生まれ、箸をつけた。それを見た連中は、ほっとした様子で、俺の所へ来ると、酒を注いで行った。
俺は、ぽつりぽつりと、みんなに言いはじめた。
 「みんな、ありがとう。ルカのために・・・ルカは、この仲間に入れたことを喜んでいた。自分も仲間になれた事が、宝なのだと思っていた。ルカの身体は亡くなったかもしれない。でも、忘れないでやって欲しい。頼む」
 「純平、解っている。だから、もう、言うな」
 尊が、俺の肩を叩いた。するとみんなも寄ってきてくれた。そうして、俺たちは青臭いガキの頃のように肩を叩きあい泣いた。
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by karura1204 | 2004-12-01 00:18 | 第六章 冬の花火

1月15日 水曜日

 本通夜、葬儀を終えとうとう、火葬場に着いた。最後の別れの時だ。俺は和尚に貰った真言の書かれた巻物を入れてやった。クリスチャンだけど、日本の寺が好きだと言っていたルカのために最後の贈り物だ。そう、ふたりで撮った写真、俺が最初に買ったワンピースも入れた。そして、母子手帳。天国で、子供の成長を書く事が出来ないと可哀想だと思って、俺はそれを入れた。
 やがて、棺が釜の中に入れられ、鉄の扉が無常な音と共に閉められた。和尚の読経が始まると、すすり泣く声も聞こえていた。俺は、不思議と涙は出なかった。涸れてしまったわけではなく。泣けなかったのだ。
 骨が焼けるまで、少し時間があった。俺は、外へ出ると、火葬場の煙突を見上げた。煙立ち上る先には、綺麗な青空が広がっていた。冬の空は、澄み切って高い。
 この手の中すり抜けた、最後の砂が落ちる瞬間、俺たちが出会った時、神の手が返した砂時計。君の最後へ向かうだけのために・・・もう一度初めから、願う心虚しく、委ねられた運命を受け入れざるを得ず、もがき苦しむ胸のうちをどうすることも出来ず、俺は佇み、立ち昇る煙の先を見詰めるだけ・・・ああ、ルカの魂が昇ってゆく。空には、君の笑顔が浮び、君の言葉が胸に蘇るよ。 
 結局、俺は、ルカ、君を守れず、その命さえ失った。俺を助けようとした君は・・・・俺からふたつの命を奪った人間をきっと許すことは出来ないだろう。だが、君は言った。「許して」と・・・・・

 ルカの遺骨を抱いて斎場から戻る間、俺は、一言も口を聞かなかった。そんな俺を心配して、尊や美里達が付いてきてくれた。
 「純平、珈琲淹れるぞ」
 「頼む」
俺は努めて冷静を装った。
 「純平、お骨は此処で良いかしら?」
 「ああそこに置いてくれ。ルカが好きな場所だ。ここから見える空が綺麗だと、いつも眺めていたよ。悪いな、美里」
 「良いのよ」
 美里は、白い布を敷きつめ、棚の上にルカの遺骨と白木の位牌、遺影を置いてくれた。俺は、それらの事をまるで他人事のように眺めていた。そうしていないと、俺の心がどうにかなってしまいそうな気がしたのだ。だが、尊の淹れてくれた珈琲を見た途端、俺の中で耐えていたものが堰を切って溢れ出した。それは留まる事を知らず、回りに尊たちがいることすら忘れ、声を出して泣いた。親父やお袋が死んだ時は、いずれ訪れる事だからと思えた。しかし・・・・
 俺は、ふいに立ち上がり、ルカを乗せる筈だったバイクの鍵を掴むと外へ飛び出した。慌てて追いかけて来る尊たちを振り切り、俺はバイクを発進させた。何処へ行く当てもない。ただ走りたかった。いや、ルカを乗せて走り、そのままルカの所へ行こうとしたのかも知れない。スロットルを全開にしてスピードを上げる。涙で滲み前は良く見えない。だが、身体が覚えた道は、ある程度走る事が出来た。
 俺は、バイクを湘南へ走らせた。ルカを乗せて走りたかった海沿いのこの道。『ルカ、見ているか?どうだ、綺麗だろう』心の中で何度も叫んだ。叫んで、叫んで溢れる涙をはじきながら走り抜けた。そして、俺が自損事故を起こした場所まで来た時、見覚えのあるバイクと車がバックミラーに写った。俺は、それらを振り払うように加速をかけた。瞬間、俺の身体は宙を舞い、ひと回転すると、あの日と同じ様に海へと投げ出された。俺の耳には、尊たちが「純平!」と叫ぶ声が聞こえた気がした。
 俺の身体は、冬の海に叩きつけられる筈だった。だが、海面に叩きつけられる寸前だ、俺の身体は何かにふわっと抱きかかえられスーッと海へ沈んだのだ。叩きつけられると思っていた体は吸い込まれるように沈んで行く。冷たいはずの水が、風呂のように温かい。意識が遠くなる。気持ち良さに『ああ、これで俺もルカの所へ行ける』脳裏には親父とお袋の顔も浮んだ。『待っていてくれよ、親父、お袋、今そっちへ行くよ。そしたらさ、ルカと5人で暮らそう』そう言った時、ルカの声が聞こえた。『死んでは駄目。純は来ちゃいけない!お願い!死なないで!』『ルカ?』その瞬間俺の意識は戻り、海面へと浮かび上がった。始めて水の冷たさを感じた。
 俺の後を追ってきていた尊たちが、俺を助けようと海へ飛び込んでいたらしい。浮かび上がった俺を見つけると近寄り、岸へと運んだ。意識はあっても、生きようとする意志が無かった俺。岸に上がると、へたへたと座り込んだ。そんな俺を尊は殴りつけた。
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by karura1204 | 2004-12-01 00:16 | 第六章 冬の花火

1月16日 木曜日

 次の日、美里が美紀ちゃんを連れてきた。香典返しに送る品物の手配をしてくれる為だった。
 「美紀ちゃんまで、悪いね。子供がいるのに・・・」
 「良いのよ、気にしないでちょうだい。これもストレス解消よ。いつも子供の相手ばかりだと、疲れるの。たまには、こうしてひとりで動くのも必要なのよ」
 「それでね、美里さんとも話したんだけれど、カタログの中のこれとこれが、一番良いと思うのよ」
と、俺にカタログを見せて言った。指差された先には、タオルケットとティーセットがあった。俺は、チラッと見ると、
 「ああ、それで良いよ。って言うか、ふたりに任せるよ。香典の中から、ふたりが良いと思うものを手配して欲しい。俺じゃ、よく解らないから、頼むよ。それに、ふたりなら、俺とルカの趣味とか判るだろう」
そう、言った。いや、それしか言えなかったのだった。
 「解ったわ。美紀ちゃんとやっておくわ。リスト、暫く預かっておくわね、良い?」
 「ああ、良いよ。悪いな」
 「良いわよ、気にしないで。決まったら、また報告に来るから。香典の会計だけ、ここに置いてゆくわ。観ておいてね。香典は、私が預かるわ」
 「ああ」
ふたりは顔を見合わせ、そして、
 「じゃあ、何か食べに行かない?純平、食べてないでしょう」
と言った。
 確かに俺は何も食べる気が起きず、ろくな物も口にしていなかった。だが、
 「食べたよ」
と嘘を付いた。
 「嘘ばっかり。キッチンが綺麗過ぎるわ」
 「俺の家は、いつもそうだよ」
 「美里さん、私、何か作るわ。手伝って」
 「良いよ、美紀ちゃん」
 「そうね、作りましょう」
 「美里」
 「純平さん、尊じゃないから、美味しいかどうか解らないけれど、何か食べなきゃ、参っちゃうわ。気にしなくて良いから、食べてちょうだい」
 そう言うと美紀ちゃんは、キッチンへ行き、冷蔵庫を開けると食事を作り始めた。
 俺は、ふたりの後姿を見ながら、ルカと食事を作っていた俺たちを思い出していた。ルカのはしゃいだ声が聞こえてくるようで思わず、涙が溢れそうになった。それを隠すために、
 「ごめん、煙草が切れた、買いに行って来るよ。すぐ戻るから」
そう言い、外へ出た。別に煙草はまだあったのだが、見ていられなかったのだった。
 マンションの周りを、ただ、ぶらぶらと歩いた。手ぶらで帰って怪しまれるのも嫌なので、ふたりのために飲みものを買い、煙草をワンカートン買って部屋へと戻った。
 「ただいま。飲み物なかっただろう。ついでに買ってきたよ」
 「おかえり。ありがとう、純平気が利くわ」
 ふたりの、おかえりという声が俺の胸を締め付けた。『出かけなきゃ良かった・・・』苦い後悔がよぎった・・・テーブルには、スパゲティが出来上がっていた。俺は、それを美味そうに食べた。それを見たふたりは、安心したように、帰って行った。
 ふたりが帰った後、買ってきたばかりの煙草に火をつけると、吸うわけでもなく、煙をくゆらせていた・・・・・『ルカ、君は今、何処にいる・・・・・?』
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by karura1204 | 2004-12-01 00:15 | 第六章 冬の花火

1月17日 金曜日

 今、俺の中のあらゆるものが、ルカを求め彷徨っていた。全身の神経細胞、脳から発する、パルス、五感・六感、真那識に至るまで、ルカと言う人間を追い求めた。まるで、それは、ひとつだったものを引き剥がされた者同志が、片割れを求め合うように、ひとつになりたがっていたのだ。
 手を伸ばせば、いつでも触れ合っていたぬくもりが、壁を突き抜けてしまう身体のように、そこに存在していない。見詰めれば、やさしい微笑が俺を包んでいた。今は、面影の中にしか見出せない。部屋を埋め尽くすルカの香りに、俺の胸は息をすることさえ苦しくなる。想い出は、峻烈だ。激しさゆえ儚く、美しすぎて、俺は身の置き所を失う。
 この世に神がいるならば、どうか、ルカをこの手に・・・・俺はそう祈る事しか出来なかった。心まで抱きしめてくれた、華奢な腕。優しく愛してくれた唇。俺の身体は、求め震えているのだった。
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by karura1204 | 2004-12-01 00:14 | 第六章 冬の花火

1月18日 土曜日

 ルカ、君の居ない部屋は寒々とし、俺はひとり凍える夜を過ごしている。持ち主のいなくなったベッドは哀しいね。夜の明かりがそこだけスポットライトのように照らしている。哀しすぎる。ひとりに戻っただけなのに・・ベランダの鬼灯は色を失い、想い出は色を増してゆく。ルカ、君が鳴らしたあの鬼灯の音色は綺麗だったよ。君の心と同じように、今もこの胸に響いている。なのに、君は・・・・・・
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by karura1204 | 2004-12-01 00:14 | 第六章 冬の花火

1月19日 日曜日

 部屋に漂う線香の煙。毎日のように美里があげに来る。俺は、葬儀が終わった日、尊に殴られても自分を取り戻す事が出来ずにいた。 
 毎日、美里があげに来る線香の煙に混ぜるように煙草の煙と酒の量がだんだん、増えていた。
 やがて、酒を飲まないと眠る事が出来なくなっていった。眠ろうとするが、意識は冴える一方なのだった。だから、また酔えない酒を飲んでは夢に魘されて目覚める。碧が処方してくれた睡眠導入剤も飲んではみるが、効き目はなかった。部屋のあちこちに残るルカの面影が辛くて、俺は当てもなく外をふらついて家に帰る。台所の包丁を握り締め、手首を見つめていると誰かが訪ねてくる。その繰り返しに、結局酒に逃げた。
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by karura1204 | 2004-12-01 00:13 | 第六章 冬の花火

1月20日 月曜日

 今日は、初七日の経をあげに、鎌倉から和尚が来てくれた。本来は、昨日なのだが、和尚の都合がどうしても合わず、今日になった。
 俺は仲間内だけで、しめやかに行った。美里と恭一さんに伴われて、ルカの母親もやって来た。だが、この時も俺とルカの母親は、無言で挨拶を交わしただけだった。いや、本当は、何かを言いかけたルカの母親だったが、俺が無視した。だから結局、何も話すことが出来ず帰って行ったのだった。なんて卑劣な俺・・・・・
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by karura1204 | 2004-12-01 00:13 | 第六章 冬の花火

1月21日 火曜日

 明日から会社に行かなければならなかった。だが、俺には、そんな気力は残って居ない気がしていた。
 お昼過ぎ、雅俊がバイクを修理して持ってきた。葬儀の日、事故ったバイクだ。幸いなのか何なのか解らないが、この時は、バイクの方もたいして壊れずにいたのだった。まるで何かに守られているかのように・・・・・
 そう言えば、俺が海に投げ出されたあの時も、もっと強い衝撃で叩きつけられる筈だった。なのに、落ちる瞬間、誰かに抱きかかえられるように落ちた。不思議な感覚だった。温かくて力強い安心感があった。そう、ルカに抱きしめられているようなそんな感じだった。
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by karura1204 | 2004-12-01 00:12 | 第六章 冬の花火