カテゴリ:第六章 冬の花火( 25 )

1月22日 水曜日

 俺は、入社以来、初めて無断欠勤をした。会社に行く気になれずにいたのだ。

 昼間、検事から電話があり、裁判での証言を求められた。俺は、ただ「はい」とだけ返事をした。

 今日は、あれほど飲んでいた酒も飲む機になれず、ルカのために淹れた珈琲を急ごしらえの仏壇にあげ、後はただぼんやりと一日ルカの遺骨を見詰めていた。
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by karura1204 | 2004-12-01 00:11 | 第六章 冬の花火

1月23日 木曜日

 今日も、会社を無断で休む。煙草が切れたので、昼に買いに行ったきり、ルカの遺骨の前でぼんやりと過ごした。
 夜、尊と峻と美里が酒を持ってやって来た。美里に聞いて、殆ど何も食べていない俺を心配して来てくれたのだ。俺は、初七日の時に会ったと言うのに、何年も会っていない様な気がしていた。人恋しいとでも言うのだろうか、俺は珍しくはしゃいだ気分になって、話をし食って、飲んだ。
 「そう、知ってる?信ね、教師辞めちゃったの」
 「え?知らねぇ・・・・何それ」
 「何でも、新人歌手のマネージャーをするんですって」
 「それ、もしかして、YUKIMIって娘?」
 「あら、純平知っているの?」
 「いや、前に、ルカと信のライブを観に行った時に聞いたんだよ。YUKIMIって娘の歌を。心に染みる歌だった。アイツが惚れているんだと言っていた」
 「そうなの」
 「まあ、アイツらしい決断だな」
 「そうね」
俺たちは笑いあった。その事で、みんなは少し安心したようだった。
 みんなが帰る時になって、俺は寂しさが増してどうしようもなくなった。だが、そんな事はおくびにも出さず見送るとひとり酒を煽って寝た。
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by karura1204 | 2004-12-01 00:11 | 第六章 冬の花火

1月24日 金曜日

 翌日、俺は電話のベルで起こされた。相手は・・・・総務の飯島だった。俺は居留守を使った。伝言には、辛いだろうけれど、出勤して欲しい旨が入った。だが、俺は無視した。
 夕方、社の連中がマンションまで来た。だが、この時も居留守を使った。明かりを消し、闇の中、月明かりだけを頼りに、俺は過ごした。
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by karura1204 | 2004-12-01 00:10 | 第六章 冬の花火

1月25日 土曜日

 恭一さんから電話が掛かる。一馬氏の圧力で、いったん決まっていたK社への依頼が取り下げられ、もう一度俺のプランが再検討されると言う事だった。大船駅前の再開発の件も恭一さんのおかげで、うちの会社が契約を勝ち取る事が出来た。だが、俺には、もうどうでも良かった。礼だけ言うと、早々に電話を切った。
 そして俺は、簡単に着替えだけ詰めると、ルカの遺骨と写真を持ち、車に乗り込んだ。家にいても、煩わしかったのだ。俺は、ルカが行きたいといっていた所をドライブすることに決めた。
 助手席にルカの遺骨と写真を乗せ、ずれない様に固定をした。
 「ルカ、行くよ。君が行きたがった所だ。良く見るんだよ」

 俺は、出発した。出逢った日と同じルートで車を走らせる。夜は、適当に車を止め、そこで眠った。朝日と共に走り出し、海沿いを西へ、西へと走った。ただ、ただ走ることしか出来なかったが、俺は、走り続けた。伊豆を回り、静岡、名古屋、大阪、神戸・・・・四国、美味しい物が好きだったルカのために、色々な食べ物を買った。
 そうして一週間、俺はルカとドライブをし、日本を約半周していた。その車の中で俺は、何度も信が、マネージャーになったYUKIMIと言う娘の歌を聞いた。彼女は、やはり、大手芸能プロダクションの音楽プロデユーサーに見出され、プロデビューを果たした。ゆったりした良い曲だ。声に合っていた。曲名は「さよなら」と言った。


あなたからの最後の言葉 
音響設備の良いホールのように
響き続け耳から離れない

「さよなら」
消え入るように 呟いた横顔
朝日に照らされ
瞳 伏せる
零れ落ちた雫は砂浜に溶けた

朝のまどろみの中
あなたを手探る
重さ感じていた腕は軽く
あなたがいない現実を
今更ながらに知る

あなたからの最後の言葉
胸に突き刺さる茨のように
縛りつけ離さない

「ゆるして」
微笑みのなか 呟いた横顔
朝日に照らされ
瞳 伏せる
走り抜けた季節想い出は儚く

冷たい身体ひとり抱き
あなた求む夜明け
浅い夢の続き靄に途切れ
あなたがいない現実を
今更ながらに知る

 街にも、連日流れていた。何処へ行っても有線リクエストされているようで、流れてくる。彼女の歌は、俺の心を更に哀しくさせた。俺とルカの別れの風景がそこにあった。
 だが、この歌は、俺の心にもう1つ変化をもたらしてくれた。ルカが最後に言ってくれた言葉。
『純の話してくれた星の話し、楽しかった。純、そう言うお仕事すれば良いのにね・・・・』
 その言葉を意識したわけではないが、ドライブしている間中、夜になると、ルカに天文の話を聞かせていた。話しているうち、ルカのこの言葉が、俺を天文の道に進ませてくれようとしていると思うようになったのだった。
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by karura1204 | 2004-12-01 00:09 | 第六章 冬の花火

2月2日 日曜日

 俺は、ようやく、マンションへ帰りついた。留守電は、もはや入りきらず。途中で伝言が終わっていた。仲間からのメッセージが多かったが、社の人間のメッセージもあった。
 郵便受けも満杯だった。手書きのメモみたいなものに、「出社してください」とだけ書かれたものや、「純平、どうしたんだよ」と言ったものもあった。そして、その中に会社から、1月末日付けで退職勧告の書類が届いていた。俺は、封をあけ、中身を一瞥すると破り捨てた。もう、俺に会社は必要ない。
 俺は、自分のデスクの鍵と支給されていた携帯を梱包すると、退職届を書き、必要書類意外は、すべて捨てて欲しいと一筆添え飯島に送った。
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by karura1204 | 2004-12-01 00:08 | 第六章 冬の花火