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2月2日 日曜日

 俺は、ようやく、マンションへ帰りついた。留守電は、もはや入りきらず。途中で伝言が終わっていた。仲間からのメッセージが多かったが、社の人間のメッセージもあった。
 郵便受けも満杯だった。手書きのメモみたいなものに、「出社してください」とだけ書かれたものや、「純平、どうしたんだよ」と言ったものもあった。そして、その中に会社から、1月末日付けで退職勧告の書類が届いていた。俺は、封をあけ、中身を一瞥すると破り捨てた。もう、俺に会社は必要ない。
 俺は、自分のデスクの鍵と支給されていた携帯を梱包すると、退職届を書き、必要書類意外は、すべて捨てて欲しいと一筆添え飯島に送った。
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by karura1204 | 2004-12-01 00:08 | 第六章 冬の花火

空の彼方

君の微笑みに出会った夏の日
ブルートパーズの瞳は
何処までもはてしなく続く青空
俺の心を包み込む

あの夏 嵐の夜に始まった物語
朝日の海辺 君はビーナスだった
鬼灯の音色に心重ね
無邪気にはしゃぎ歩いた街並み
夜空見上げ語った神話
君の寝顔を見詰めていた朝の光

夢の時はいつか覚める
君は目覚めぬ夢の中ひとり
俺の腕に抱かれたまま旅立った
君の空 笑顔探す
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by karura1204 | 2004-12-01 00:06 | エピローグ

2月3日 月曜日 1

 今日は、朝から尊と美里・峻・真二・碧が来た。俺が居ない間、何回も来ていたのだろう・・・
 「純平、何処に行っていた!」
いきなり、尊が怒鳴った。
 「電話しても出ないし、携帯は電源入ってないし、心配したのよ。何度ここへ来たか」
 「悪い、ルカを連れて、ドライブにっていたんだ。まあ、座れよ」
 「ドライブ?」
 「ああ、車無かったろう」
俺はクッションに座った。
 「そう言えば・・・・・」
 「なんだ、気がつかなかったか?」
 「お前なー」
尊が、俺の胸倉を掴んだ。
 「まあ、待てよ、尊。純平の奴、何か吹っ切れたみたいだぜ」
真二が、弁護士らしい観察眼で言った。
 「吹っ切れたわけじゃないさ。ただ・・・」
 「ただ、何なんだよ」
尊が、胸倉を掴んだまま詰問する。
 「ルカの残したメッセージが少しだけ解った気がするんだ」
 「メッセージ?」
 「ああ。ルカ、最後に俺に言ったんだ。あの朝、目覚めてはっきりと言った事がふたつある」
 「何だって?」
 「許してってな」
 「許して?」
 「ああ、お父様を許して・・・・ただ、これは許そうにも許せない問題だがな・・・」
 「それから?」
 「そして、俺がルカに話してやった星の事を言った。楽しかったと・・・。俺にそう言う仕事すれば良いと。俺は、ドライブしている間、夜になると星の話を聞かせていたんだ」
 俺は、尊の手を解くとキッチンへ行き、珈琲を淹れた。
 「俺の珈琲、飲んでくれよ。まだ、飲ませたこと無かったろう。ルカが好きだったんだ。俺の淹れた珈琲」
 「珈琲と星の話が、どう関係するんだ?」
尊がキッチンまで来て言った。
 「まあ、急かすなよ・・・・・・」
俺は、珈琲をゆっくりと淹れた。部屋には、珈琲の芳香が漂いはじめた。
 「良い香りね」
美里が、一番先に言った。
 「ありがとう。さあ、どうぞ。冷めないうちに」
俺は、みんなに注いだ珈琲を配った。
 「確かに良い香りだ」
 「ああ」
俺は、みんなが珈琲を飲むのを待つと、窓際へ行き独り言のように言った。
 「俺・・・天文台に勤めようと思うんだ」
 「何?」
 「え?」
驚きの表情が返って来た。
 「確か、うちの大学の高村教授が、フランスの天文台にいる筈なんだ。そこを訪ねてみようと思う」
 「本気か?」
 「ああ、本気だ」
俺はみんなの方を振り返って言った。
 「そこじゃなくても、高村教授に紹介してもらえたらと思っているよ」
 「でも、大学を卒業して何年経っていると思っているの?」
 「解っているさ、言われなくても。正式な天文学員じゃなくて良いんだ。兎に角星の見える所で働ければ。それがルカの最後の想いなら、俺は叶えたいと思う」
 「だったら、何もわざわざフランスまで行かなくても・・・・・」
 「高村教授の講義は面白かったし、あの人の天文に対する考え方が、俺は好きで、気に入っているんだ。だから・・・出来れば、高村教の側で仕事がしたい」
暫く沈黙が続いた。
 「まあ、止めても純平は聞かないでしょうから、行きなさいよ。フランスでも宇宙でも、あんたが好きな所へ」
美里がお手上げのポーズを取り言った。
 「で、お前、この部屋どうするんだ?誰かに貸すのか?」
碧が聞いた。
 「いや、誰にも貸す気はない。ルカと俺の部屋だ。他所の奴に貸す気は全くないよ。まあ、美里が住むって言うなら話は別だがな」
 「私?」
 「ああ、お前だ。あとは、恭一さんかな。それ以外の人には貸したくないよ」
 「気持ちは解るけど・・・・・」
 「純平、俺、お前の珈琲初めて飲んで思ったんだけど、何も天文台に行かなくても、天文の話は出来るんじゃないかな・・・・・純平、お前、珈琲ショップやらないか?」
いきなり真二が言った。
 「実は、一軒珈琲ショップが競売にかけられているんだ。そこで、珈琲淹れながら、天文の話したって良いんじゃないかな。そうしたら、ここに住んだって良いわけだろう」
 「良いな、それ、俺もお前の淹れた珈琲を飲みに来たいよ。仕事の帰りとかに寄らせてもらうよ」
峻も同調した。俺は、みんなを見渡すと、ゆっくりと言った。
 「気持ちはありがたいけど、今、俺ここに住み続けるのは、まだ正直辛いんだ。暫く離れていたい気分なんだ。それに、俺の珈琲は趣味だから良いんだ。飲みたいときは言ってくれよ。いつでも淹れるから、もう出し惜しみはしないよ」
 「そうか・・・・・仕方ないか」
 「でも、その珈琲ショップ、競り落としておくだけでも良いんでしょう?」
何処へでも行けと言った美里が、心残りだとばかりに突然言った。
 「まあな。買っておけばこっちのものだから、どう使おうと構わないよ」
 「なら、純平がその気になるまで、置いておけば?」
 「美里、俺の気持ちが変わるのは、いつになるか解らないぜ」
 「大丈夫よ。純平の事だもの。淋しくなってすぐ、私たちのところに帰って来るわよ」
 「あのな、美里、俺はそんなお子ちゃまじゃないぞ」
苦笑いをした時、それまで黙っていた尊が、
 「珈琲ショップったって、それなりに大変だぜ。仕入れやら在庫や・・・生半可じゃやれない。商売は、趣味じゃないんだ。美里、勝手な事言うなよ」
と怒ったように言った。
 「あら、私だって、宝石店のオーナーよ。それなりに商売の事は解るつもりだわ」
 「美里、お前には、なんだかんだ言って西園寺家と言う後ろ盾があったからやって来られているんだ。何もない所から始めるのは、並大抵じゃない。俺だって、親父の基盤があるから、あの場所でやっていられる。それがなかったらやっては行かれないよ」
 「それは・・・・」
 「尊、良いよ。美里だってみんなだって、俺を思って言ってくれているんだから。あんまり熱くなるなよ」
 「ああ、俺もそれは解るよ」
 「俺たちが、ここで言い争ってもルカは喜ばない。もう、俺の事で熱くならないでくれ。頼むよ。俺は、もうフランスに行くことにしたんだから。後は出たとこ勝負。大学の高村ゼミの連中に当たってみるよ」
 「解った。頑張れよ」
尊がため息混じりに言った。
 「ああ」
俺は尊の肩を叩いた。そして、
 「美里、気持ちはありがたいけれど、俺にはその気はない。悪いな」
と言った。
 「純平が、元気ならそれで良いわ。でも、今度いなくなる時は、ちゃんと行き先を言ってよね」
 「判った。ああ、そうだ、みあげを買いすぎているんだ。持って行ってくれよ。頼む」
俺は、買ってきた食べ物や飲み物を広げた。
 「これ、全部?」
 「ああ、ルカが好きだったものとかを買っていたらこんなになった」
 「全く、限度を知らないわね」
 「まあ、良いじゃないか。お、これ良いな。俺、このカラスミ貰ってゆくよ。酒のつまみに良い」
峻は、酒好きらしく言った。
 「じゃあ、私はこのワインを頂くわ。今度、店のパーティーがあるの」
 「良いよ、持って行って」
俺は、あらかたみんなに持たせた。
峻が帰りがけ、
 「明日から、裁判が始まる。傍聴に来いよ。時間は、13時からだ。ここにいるみんなも行くからな。お前も証人で呼ばれているだろう」
 「ああ、行く」
 「じゃあ、明日」
 「ああ、明日な」
 みんなは、裁判の事も気になって来てくれたようだった。俺は、そんな気持ちが嬉しかった。こいつらと離れるのは確かに淋しい気もする。美里が言うように、淋しくてすぐ日本に帰ってきてしまうかもしれない。だが、今は自分の決めた道を歩んでみようと思っていた。
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by karura1204 | 2004-12-01 00:05 | エピローグ

2月3日 月曜日 2

 そしてその日の夜、ルカの母親がひとりで尋ねてきた。
 「こんばんは」
 「こんばんは、どうぞ」
 母親は、ルカの遺骨の前で長いこと祈っていた。俺はその姿をただ見詰めていた。見詰めながら、考えてみればこの母親も不憫な人なのだと俺はその時初めて思った。母親は俺の方に向き直り
 「ありがとうございます。ルカは幸せだったと思います」
深々と頭を下げた。俺は、何を言って良いのか解らず黙っていた。
 「佐藤さん、あの娘を貰ってくださってありがとうございます。こんな結果になってしまいましたが、悔やんではいないと思います。ただ、あの娘の事は、早くお忘れになって、あなたご自身の幸せをお考え下さいませ」
 「いえ、俺にとってルカは、忘れられない人です。一生無理な事だと思っています。彼女は、俺を変えてくれた人ですから・・・・」
 「あの娘が?」
 「ええ」
 「そうですか・・・あの娘が・・・」
 また沈黙の時が流れる。俺は、沈黙に耐えられなくなり、珈琲を淹れに行くと、ルカの母親にも出した。
 「どうぞ、珈琲飲んでください。ルカは、俺の淹れた珈琲が好きでした」
 「ありがとう。そうですか、この珈琲ですか」
 母親は、ルカがそうしたように、カップをおし抱くと珈琲をひと口飲んだ。そして涙を零した。俺は何を言って良いのか余計解らなくなった。
 「ごめんなさい。ルカの手紙に、あなたの珈琲の事が書いてあったものだから・・・」
 「手紙?」
 「ええ」
そう言うと、一通の手紙を母親は俺に差し出した。
 「ルカが、くれた最後の手紙です。離れて暮らすことが多かったので、よく手紙をくれました。家を飛び出してからは、くれませんでしたが、あなたと婚姻届を出した事と、もう二度と家には帰らないと言う内容です。どうぞ、お読みになってください」
 「良いんですか?」
 「ええ、あなたにはその権利があります。どうぞ、いえ、是非読んでやって下さい」
俺は、差し出された手紙を躊躇いがちに開けると恐る恐る読み始めた。

『お母様へ
 この手紙は、お母様へ出す、最後の手紙です。その事を解って読んで下さい。お願いします。
 私は、佐藤純一さんと言う方とご縁があり、婚姻届を出しました。でも、この事は、ずっと内緒にしようと思っていました。義父に知られたら、色々妨害されるでしょう。そんな事は、言わなくても、お母様にはお解かりになりますよね。
 なのに、何故お母様だけには言っておきたいのかと言うと・・・・・私、本当に心から愛する人と巡り合い、愛し合い、母となる事が解ったからなのです。
 ただ、皮肉にも、義父が私につけた名前、仏教思想の〝業〟カルマを意味する、伽瑠羅と言う名前が物語るように、結局私も、お母様と同じ運命を辿っている・・・・・それが悔しいけれど・・・・・
 きっと義父は反対するでしょう。お母様を、私のお父様から奪ったように、どんな妨害をするか解りません。けれど、私は、お母様、お母様と最後の最後、違った運命を歩みたいのです。それが、良い方向に行くのか、悪い方向に行くのか、それはもう、神のみの思し召し。それ以外にはない、そう心に思えたのです。ですからお母様、お母様にだけ本当の事を言います。後は、お母様がどうされるかは、お母様にお任せします。でも、私が母になることを、お母様には祝って欲しい。祝ってくださいますよね?
あの時、お母様が、私を産んで下さったから、私は、純と言う素敵な人に巡り合う事が出来ました。そして、純との子供を授かったのです。私は、その事を心からお母様に感謝したいの。お母様、ありがとう。言葉では言い尽くせない思いが、今、私の中に溢れています。お医者様から妊娠を告げられた時の私の喜び、純と分かち合えた喜び、言葉では言い表せない感動でした。お母様も、私がお腹にいると判った時、同じ想いをしたのでしょうね。
 純はね、とってもあたたかくて優しい人です。きっと、私のお父様も、純のような人だったのでしょうね。だからお母様もお父様を好きになったのでしょう。それが、やっと解った気がします。私は、純と幸せになります。お母様、どうか、私を見守ってくださいませね。
 そうそう、お母様、純はね、珈琲を淹れるのがとても上手なの。本当なら、お母様にも純の淹れてくれた珈琲を飲ませてあげたい。いつか、いつか・・・飲みに来て下さいませね。子供が産まれたら、美里姉さまに伝えますから、抱いてあげて下さいませ。お母様、私は、その日を楽しみにしています。お母様も、お体を大切に、その日を楽しみにしていてくださいませ。
では、さようなら。
佐藤 伽瑠羅
1月3日』

 俺は、手紙を読みながら、ルカの想いがまた少し解ったような気がした。ルカがお父様と言ったのは、自分の本当の父親のことではないのか?
 「この手紙は、投函されたものですか?」
 「いいえ、まさか。美里さんが届けてくれました。美里さん自身も悩んだ様子でしたが、ルカに言われたそうです。私の我侭だけれど、くれぐれも頼むと」 
 「それで、この手紙はいつ受け取ったのですか?」
 「丁度、あの娘がホテルへ連れて来られる前の日、5日です。でも、実際読んだのは、あの娘が倒れた次の日でした。皮肉なものです。あの娘があなたとの子供を授かっていたことも、結婚していたことも知らなかったのですから・・・酷い母親ですね。ごめんなさい」
ルカの母親は頭を垂れた。
 「でも、一馬氏は知っていたのでしょう?」
俺は、母親の肩を揺らした。
 「ええ、でも、あの人は私に何も話しません。恭一さんとルカの婚姻の事も、寝耳に水の話で、ルカが驚いたのと同じかそれ以上の驚きでした」
 「一馬氏は、俺とルカが婚姻届を出した事をどうやって知ったのです?ずっと内緒で行動していた筈なのに・・・・」
母親は、少し言い難そうに、悲痛な声音で言った。
 「興信所を使っていたようです。一度、加納があなたたちの車を着けて失敗したそうですね」
 「ああ、あの時・・・・・」
 「その後、何処かの会社を頼んだそうです。加納に問い詰めましたの」
身体中を戦慄が走り抜ける。長い沈黙の後、
 「それなら何故もっと早くルカを連れ戻さなかったのですか?」
 ボソっと俺の口をついて想いが言葉に変わる。抑えていた感情が怒りに変化する。
 俺は、この母も同罪なのだと言わんばかりに詰った。それでどうなるものでもない事は判っている。しかし、詰らずにはいられなかった。
 「俺は、あの人がやはり許せない。ルカの妊娠が判ってから、連れ戻したり、俺の会社に圧力をかけたりするのは、卑怯じゃないんですか?」
 怒り、悔しさ、なんとも言えない想いがさらにこみ上げる。両の拳は、固く握りしめられ、ぶるぶると震えるのがわかる。
 「その事は、言い訳も出来ません。あの娘に子供がいたことを知っていたら・・・いいえ、それでも何も出来ませんでしたわね。きっと。佐藤さん、愚かな母を許せとは申しません。ただ、今の私に出来る事は、こうして謝る事だけです。一生掛けて、ルカに謝り続けることなのです」
 母親は、頭を下げた。確かにそれしか出来ないのだろう・・・しかし・・・・・
 「すみません。帰っていただけますか。俺は、あなたがいると何をするか判らない。俺自身が犯罪者になってしまいそうだ。お願いです。今直ぐ、帰ってください」
 俺は感情を押し殺し言った。そうしないと、本当に、殴り殺してしまいかねない激情が俺を支配していたのだ。母親は、更に深く頭を下げると、無言で部屋を出て行った。
 俺は、ドアが閉まる音を確認すると、誰にもぶつけられない想いを吐き出すために叫んだ。その叫びは音と言うより動物の唸りに似ていた。折角、ルカとドライブをし、ある程度、自分の想いにケリを付けたつもりだった。 
 しかし、母親から聞かされた事が、俺にはショックだった。興信所を雇い、俺たちを監視し続けた一馬氏。その事自体は卑怯と言うしかないが、それを予測できずにいた自分が不甲斐なかったのだ。ルカを守り抜くことが出来なかった自分が悔しく、情けなかった。
 やがて俺は、物に当り散らした。手近に有るものを投げまくった。ルカとの生活を覗き見されていた事が俺には、何か聖域を侵略され穢された想いでいっぱいになった。
 俺は、バイクのキーを掴むと、また当てもなく走り始めた。空からは、闇から這い出たように、冷たい雨のシャワーが降り注いだ。
 『どうして俺は生きているんだ。ルカ、君は俺を残して何故ひとり旅立った・・・お願いだ、答えてくれ』『俺は、何をどう許したら良い?ルカ、教えてくれ』
 ルカの手紙は、俺を更に迷いの淵を歩かせていた。許せない、許せるわけはない。なのに、許さねばならぬ約束をルカと俺はした。最後の瞬間まで、許してと言ったルカの想いを俺は・・・せめて、ルカ、君の命がこの手の中に有ってくれさえすれば、まだ許せる気持ちも起きただろう。その命がもう、この手の中にはないのだ。
 俺は答えの出ない難問を抱えた学生のように自問自答を繰り返し、一晩中走り続けた。冬の雨は、容赦なく身体から熱を奪って行く。だが、寒さより、心の痛みは例えようも無く俺を貫いて震えるのだった。
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by karura1204 | 2004-12-01 00:04 | エピローグ

2月4日 火曜日

 翌朝、俺は散らかした部屋に戻った。答えは出なかった・・・いや、出るはずもないのだが、濡れた身体をシャワーで温め、ベッドに寝転んだ。ルカの香り残るベッドに体を横たえるとルカの想いが流れ込んでくる気がした。そして俺は、ひとつの方向性を見出した。
 『ルカ、君の親を許す事は、今の俺には出来そうもない。許そうと思えば思うほど、憎しみの炎が身体を包み込んでしまう。だが、君の親を否定する事は、君自身をも否定してしまう。君の喜び俺との暮らしをこれ以上穢したくない。だから、時間は掛かっても許せるようになりたいと思うよ。それだけは誓うよ、ルカ・・・・・これからも、俺の心を波立たせる事はいくらでも起こるだろう。けれど、俺を見守っていて欲しい』 
 この結論を導き出し、俺はいつの間にか眠っていた。ブザーの音で起こされるまで眠っていた事に気付かなかった。寝ぼけ眼でインターフォンを覗く。美里と恭一さんだった。
 「純平、時間よ」
 「時間・・・?待って、今開けるから。上がって来いよ」
 俺は一瞬なんの事だか判らなかったが、ふたりが上がってくる間に思い出した。そうか公判だ。昨日のショックで俺は今日が初公判だと言う事を忘れていた。美里は、上がってくるなり、
 「何この部屋!どうしたの?泥棒でも入ったみたいじゃない」
と呆れたように言った。
 「ああ、昨日、チョット・・・・・」
 「物に当ったわけ?」
 「ああ、当った。その辺避けて座っていてくれよ。着替えてくるから」
俺は、顔を洗って寝室へ行くと着替え始めた。リビングに戻ると、部屋は少し片付けられていた。
 「悪いね」
 「良いわよ、これくらい」
 「珈琲淹れるよ。まだ、それくらい時間有るだろう?」
 「そうね。でも、私たちが来るまで忘れていたんじゃないでしょうね?」
 「忘れていた」
 俺は、珈琲を淹れにキッチンへ行った。その俺にむかって美里は少しの非難と少しの心配を込めたように言った。
 「昨日、話したのに、何で忘れちゃうわけ?あの後何か有ったの?」
 俺は言葉を捜した。だが、見つからなかった。
 「いや・・・ん・・・あったと言えばあったかな」
 「何それ?」
 隠してもいずればれるだろうと思い、正直に言った。
 「昨夜、ルカの母親が来たんだ」
 「母が?」
美里と恭一さんは顔を見合わせ言った。
 「ああ。ひとりで来たよ。ルカの最後の手紙を持ってな。美里が届けたやつだ」
 「ああ、あれ。で、何て書いてあったの?」
 「それは勘弁してくれないか・・・話す時が来たら話すからさ」
 「判ったわ」
 「母とはどんな話をされたのですか?」
恭一さんが聞いた。
 「ショックな真実を告げられたよ・・・」
俺が煙草に火をつけ、最初の煙を吐き出すのを待って、恭一さんが再び聞いた。
 「ショックですか?」
 「ああ、一馬氏は、全て知っていたようだ。俺たちが入籍し、子供が出来た事も知った上で強行に及んだと思うね。何て言っても、興信所を使って俺たちの周辺を監視していたのだから・・・」
 「母は、その事を裁判で証言するつもりだとかは言っていませんでしたか?」
 「いいや、俺の気持ちが混乱して、すぐに帰ってもらったよ。だから、それ以上のことは聞かなかった。あのまま話していたら、俺の方が犯罪者になりそうでね・・・・・」
 「そうですか・・・」
 「ええ、それじゃあ、そろそろ行きます?」
俺はふたりに同意を求めた。
 「行きましょう」
 恭一さんは言うと、コーヒーカップを流しへ持って行った。そして俺たちは、連れ立って裁判所へ向かった。

 裁判所で、ルカの母親に会った時、俺は驚いた。それは、驚きを通り越し、感動ですらあった。その思いは俺だけではなく、美里も恭一さんも同じだったと思う。ルカの母親は、出家僧の服を着用し、頭を丸めていたのだった。
 最初に声を掛けたのは、恭一さんだった。
 「母さん、どうしたの?」
 「恭一さん、ごめんなさい。勝手に決めてしまって。私ね、ルカの事を弔うために出家致しました。暫くは、西園寺の家には帰りません。西園寺の事は秀樹と話し合って決めてください。あなた方にお任せいたします。西園寺を継ぐも良し、其々がひとりで生きるも良し、秀樹には、そう伝えてありますから、どうしようと構いませんよ」
 「杏子と仁の事はどうするのですか?」
 「仁は、出てゆきましたよ。杏子との婚約を破棄してね。西園寺の将来に見切りをつけたのでしょう。一馬が失脚したも同然なのですから・・・杏子の事は美里さんに頼んでおきました。あの子には迷惑をかけるけれど、それでも良いと言ってくれたから、甘える事にしました」
ルカの母親は、俺の所へ静かに歩み寄ると、
 「佐藤さん、私のけじめのつけ方です。一生かけて弔ってまいります。あなたはあなたの道をお歩きくださいませね。ルカのこと、本当にありがとうございました」
深々と頭を下げきっぱりと言った。俺は、黙って頷いた。
 
 その日の裁判は、ルカの母親の証言もあり、一馬氏のしてきたことが次々に明らかになって行った。俺は、傍聴席で胸糞が悪くなる思いがして途中で席を立ちたくなった。だが、ルカの母親の態度に、俺はそれも出来ず、目を閉じ、じっとその様子を聞いていた。
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by karura1204 | 2004-12-01 00:03 | エピローグ

2月15日 金曜日

 俺はその後、自分が証人に立ってからは、傍聴に行かなくなった。ルカのために行ってやれと言われたが、行く気がしなかった。逃げていると言われればそれまでなのかもしれないが、それより、フランスへ行くための準備をしたかった。後は、結審の日に行けばそれで良いと思った。
 俺は手始めに、高村教授とコンタクトを取るために大学へ赴いた。卒業してから10年以上経っていたが、意外にも簡単に高村教授のフランスの住所と連絡方法が判った。 
 早速、俺はEメールを送った。エアメールの方も考えたが時間が掛かる。ルカの100ヶ日法要が終わって直ぐに旅立ちたかったのだ。
 二日後、高村教授からの返事が来た。いつでも、遊びに来るつもりでおいでとあった。俺は、嬉しくて直ぐに返事を出した。俺はこうして、着々と旅立ちの準備を始めた。
 ルカの遺骨は、100ヶ日法要の後、埋葬する事にし、和尚に頼んだ。親父とお袋と一緒に俺の家の墓に入れてやりたかった。
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by karura1204 | 2004-12-01 00:02 | エピローグ

3月2日 日曜日

 今日は、ルカの四十九日。俺は、皆に声を掛けなかった。ただ、ルカの母親と美里と恭一さん、それに尊だけを呼んで和尚の所でささやかに経をあげてもらった。とにかく時間が惜しかった。フランスへ行くための準備と何十年かぶりの勉強の時間に当てたかった。それに、皆の顔を見れば、何処かで揺れ動いてしまいそうな自分がいることを俺は恐れたのだ。だから、尊たちに言った以外は、誰にも言わないでおいたし、他の連中にも内緒にしておいて貰った。このことを知れば、連中の事だ、何やかにやと言ってくる。それが解るだけに、俺は100ヶ日法要までは言わないでおきたかったのだった。
 法要の後、簡単に食事を取りルカの思い出話をしたが、時折襲ってくる痛みに俺は、どうして良いのか分からなくなった。笑顔を見せながらも、俺はにはまだ、思い出になど出来ない。早々に場を切り上げ、俺は帰途に着いた。
 家に帰ると、電話が鳴った。尊からだった。
 「よお、純平」
 「何だよ、尊。今会ったばかりじゃないか。どうしたんだ?」
 「どうもしないさ。ただ・・・・・」
 「ただ、何だよ」
 「いや、何でもない。まあ、頑張れや。そうだ、発つ前に、飲みに来いよ。それだけだ。じゃあな」
 「ああ」
 電話は、それで切れた。俺は、受話器を置くと、笑った。尊の気持が嬉しくて、笑った。そして涙が零れた。それは哀しみの涙ではなく、暖かい涙だった。俺は、煙草を取り出すと『サンキュー、尊』そう呟いて、吸った。
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by karura1204 | 2004-12-01 00:01 | エピローグ

4月13日 日曜日

 とうとう、納骨の日になった。100ヶ日は来週だが、俺の誕生日に合わせルカの納骨をしたかった。仲間からは、不評だったが、俺の新たな旅立ちに相応しい日にしたかったのだ。まあ、何も知らない連中には奇異に思えたかも知れない。だが、誰に何と言われようと、俺は俺の想いを込めたかった。
 フランス行きは、準備も終わり、出発を待つばかりになっていた。後は、仲間に言うだけなのだが、結局俺はこの日、言わなかった。いや、言いたくなかったのだ。この期に及んでまで人から言われる事を恐れていたのかもしれない。言わない方が、後から言われる事になるが、それでも皆は分かってくれると信じていた部分もある。だから、今日は皆とバカな話で盛り上がった。勿論、痛みはまだ襲ってくる。それでも、四十九日の日に尊が掛けてくれた電話のおかげで、俺はまた少し楽になれた。そんな連中と俺は離れようとしている。一言言えば、止める連中もいるし、快く送り出してくれる連中もいる。俺はそんな仲間と出逢えた。ルカもその一員になった。その、ルカの納骨は楽しくしてやりたい。此処で俺がフランス行きを言い出したら、色々とあるだろう。ルカの前でそれは嫌だった。俺は、大いに飲み、語りバカ騒ぎをした。それも、ルカへの餞だと想っていた。
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by karura1204 | 2004-12-01 00:00 | エピローグ

4月21日 月曜日

 俺は、ルカの母親がいる寺にいた。ルカの母親にだけは、俺が明日旅たつことを告げておきたかったからだ。母親は、少し避難のこもった目を俺に向けた。それはそうだ。明日は裁判の結審の日。その法廷に出ず、旅立とうと言うのだから。しかし俺はその瞳を見詰め返し言った。
 「申し訳ありません。でも、もう決めたことです。この手紙を明日、美里たちに渡してください。それから、これは、貴女へお渡ししておきます」俺は、ルカが持っていた十字架を差し出した。
 「ルカの形見の十字架です」
 「よろしいのですか?」
 「ええ、これは貴女が持っていた方が、ルカも喜ぶと思います」
 「そうですか」
そう言うと、母親は十字架を胸に押し抱きじっと祈っていた。やがて
 「分かりました。明日、私からも美里たちには貴女の思いを語ります。お気をつけて」
と頭を下げた。
 俺も静かに頭を下げると、その場を立ち去った。
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by karura1204 | 2004-12-01 00:00 | エピローグ