「ルカ、決心しているって、あなたに何か話したの?」
「いや、何も話さないよ。ただ、態度がね。微妙に違っている。おどおどした感じが無くなった」 「ふ~ん。と言う事は、やっと結ばれたんだ。純平にしちゃ、時間掛かったわね」 「おい、そんな言い方するなよ」 「そうじゃないわ。ありがとう。大事にしてくれて。嬉しいわ」 美里は、まるで自分がルカの母親のように言い、頭を下げた。俺は、照れ隠しにグラスを開けた。 「それで、話の続きは?」 「そうね、マスターお代わり」 「俺も」 「ルカの母親は、逃げたけれど、半年後、父に連れ戻されてしまったわ。その頃母のお腹にはルカがいたの。父は、激怒した。私、その時の父の異常な行動を見ていたのよ。父は、人前では紳士面しているから、他の人は知らないけれどね。でも、父は、ルカを自分の子供として結婚したの。だから、戸籍上はれっきとした西園寺家の人間よ。内情を知っているのは、家族だけ。西園寺家に出入りする人は、ルカの事を父の本当の娘だと思っているわ。不思議な家族よ」 「じゃあ、ルカの本名は、西園寺 伽瑠羅だね」 「ええ、そうよ。でも、何で伽瑠羅の名前を知っているの?」 「知っているわけじゃない。出逢った時、江ノ島へ行きたいと言うので連れて行った。そこにあった鍵に、仁&伽瑠羅の文字があった。ルカは、その鍵を見詰めて泣いていてね・・・・」 「そう、アイツと決別しに行ったのね」 「仁って奴は、ルカを裏切ったのか?」 「ええ、見事にね。でも、アレは最初から仕組まれていたのではないかとも思えるわ。佐伯 仁(じん)、父の秘書のひとりよ」 「佐伯?」 「そう、ルカ、アイツの苗字名乗ったでしょう。尊から電話貰って驚いたのよ。ルカって、あの子の愛称だったしね・・・・辛いところね」 俺は、胃の辺りがムカムカした。出会った日、ルカが流した涙の訳や、言葉の意味が俺の中でひとつに繋がった。だが、それは、繋がって欲しくない事だった。 「マスター、ウォッカある?」 「ありますよ」 「じゃあ、それ」 美里は、横目で俺を見ていた。 「母親の後を継いで、海外で生活していたルカに、仁は近づいたの。西園寺家の一員になりたくて。実力はあるけれど野心家で手に負えないわ。あの子じゃあね。でも、好きになったのよ。この気持ちばかりはどうしようもないわ」 「そいつが、何故ルカを裏切った?」 「杏子に乗り換えたからよ。まあ、乗り換えさせたのはお父様だけれどね。仁よりお父様の方が役者は上だもの。来年早々、杏子と仁は結婚するの。でもね、もっと酷いのは、ルカが生まれた2年後に、父とルカの母親の間に男の子が生まれた事よ。彼の名前は秀樹」 「俺、会った事ないぞ」 「そうね、アメリカで小さい頃から英才教育されていて、日本には居ないもの」 「で、その秀樹君が後を継ぐって事?」 「ええ、そう。父は、恭一兄貴を秀樹の後見人にする気よ。そして、ルカの夫にね。それを知ったルカは、家を飛び出したって訳。まあ、元々海外での暮らしが長いから、ひとりで暮らす事に抵抗はないみたいだけれど」 「何て事だ!」 そう呟き真っ白に成った頭を整理したかった。俺の頭は爆発寸前だった。ともすると、怒りでどうにかなってしまいそうな気もした。理解とかのレベルではなく、出来すぎたドラマが目の前に『現実だよ』と突きつけられている感じだった。 「でも、美里の親父さんは、何だってそこまでルカに辛く当たる?自分の子供じゃないからって・・・・」 「それが、あの人の異常性格者なところよ。伽瑠羅って名前だって、仏教のカルマから取っているのよ。母親が、自分に振りむかず、他の男と逃げて出来た子供だから、母親をそうやってなじっているの。私は、そんな父親に愛想つかして、早々と家を出たわ。 もともと私は、昔から父親の言いなりにならない子供だったから、手を焼いていたんでしょうね。それに、私とルカは、昔から気が合って仲が良かったの。それも父には気に入らなかったのかもしれない」 俺は、酒を煽った。煽る事しか出来ない気分だった。 「これで、純も、西園寺家のお家騒動に巻き込まれた一員よ、覚悟が揺らぎましたでは、ルカをまた辛い目にあわせるだけだから、頼んだわよ」 「ああ」 それから、美里は西園寺家の事をいろいろ話してくれた。だが、何一つ耳には届いていなかった。ただ、相槌を打つことで精一杯だった。だから、俺は、何杯もウォッカを煽った。酔えない酒を流し込んで・・・・。 結局、何だかんだ言って、店のラストまで美里と飲んだ。ルカに早く帰ると言っておきながら・・・店を出た所で俺はふらついた。今頃酒が効いて来た。 「純平、大丈夫?」 「大丈夫だよ」 「でも、足元ふらついているわよ」 「平気さ」 俺は強がって言ったが、平衡感覚を失ってまたよろけた。 「心配だな。送ってゆくわ。大丈夫、マンションの前までにするから」 こうして、俺は美里に送られて、マンションに帰り着いた。美里に送られながら、俺の頭の中は少しずつ落ち着いてきた。送ってもらえなければ俺は、家には帰らずに居ただろう。 美里は、帰り際、俺の心を見透かしたように言った。 「純平、ルカや私の事を可哀想だとは思わないでね。それはそれで仕方のない事だし、その中で好き放題やっているのだから」 「ああ、それより、悪かったな。今度埋め合わせするよ」 「いいわよ。ルカが世話になっていることだしね。本当は会って行きたいけれど、ルカ、嫌がるでしょうから、此処で帰るわ」 「電車有るのか?」 「ええ、まだ大丈夫。無かったら、碧を呼ぶから」 「え、アイツと付き合っているのか?」 「ええ、あ、そうそう、純平、あんたが倒れた時、私、碧と一緒だったのよ。ルカったら、慌てて私に電話してきたの。だから、誠の電話を教えて、碧と一緒に行くようにしたのよ」 「そうか、誠の奴何も言わないから」 「誠らしいでしょう」 「そうだな」 「じゃあね」 「ああ、じゃあ」 俺は、玄関前の廊下で、煙草を1本吸った。吸いながら、考えていた。美里には、偉そうに言ったが、ルカの置かれた立場を考えると、俺は、ルカにどうしてやれるのだろうかと思っていた。それに、俺は、美里と会っていた事をルカに言って居ないし、まさか、美里から事実を聞いているとは思ってはいないルカの顔を見るのが辛かった。 最後の煙を吐き出すと、空を見上げた。月が綺麗だった。『そうだ、今日は15夜だ』俺は、酔い覚ましと後ろめたさを隠すために、ルカと散歩でもしようと、玄関のドアを開けた。 「ただいま」 「あ、おかえり。どうだった、楽しかった?」 「楽しかったよ、月が綺麗だから散歩しないか?今日は、15夜なんだ」 「良いわね。でも、まず、着替えたら、そこの椅子に掛けてあるでしょう」 「ああ、ありがとう」 俺は、洗面所で着替えると、鏡を見た。動揺が顔に出ていないか心配だったのだ。水で顔を叩くようにしてリビングに行った。ルカはキッチンで何かをしていた。 「何しているの?」 「うん、明日の朝の準備」 「いい心がけだね」 「でしょう」 「ああ」 俺もキッチンへ行く。ルカの姿が儚げで、愛しくて抱きついた。 「あ、危ない、包丁持っているのに」 「ゴメン、でも、こうしたい」 「あら、月見の散歩は?」 「それは、もういい。ルカ」 「何?」 俺は、ルカを抱きたくなった。美里との話が気になっていた。俺は、仁と言う男をルカから追い出してしまいたいと言う衝動に駆られたのだ。ルカが、相手の男の苗字を名乗ったことを知った事で、見えないもの対する嫉妬が生まれた。酔えない酔いに任せ、求めた。 「ルカ、君を抱きたい」 キスをし、腕を取ると、そのままベッドへ行った。そして、貪るようにルカの身体を求めた。求めながら、俺は何故か泣いていた。 「純、どうしたの?」 「わからない。わからないが、泣けてくるんだ」 「そう」 いつしか、俺のほうがルカに抱かれていた。優しく、温かく、俺は包み込まれて・・・・
by karura1204
| 2004-12-01 01:40
| 第四章 パンドラ
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