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8月8日 木曜日 

 次の日、俺は午後一番で、内線電話で神保嬢を呼んだ。
 「神保君。ちょっと時間、良いかな?」
 「はい」
 「じゃあ、総務の小会議室へ来てくれ」
 「はい。5分で伺います」
 電話は切れた。自分で時間を指定する人間も珍しい。こういう几帳面さを高橋嬢は買っているのだろう。確かに約束通り5分で小会議室に神保嬢は現れた。
 「チーフ、どんなご用件でしょうか?」
 単刀直入に聞いてくる。俺はおかしくなって、笑ってしまった。
 「何か変なことを言いましたか?」
 「いや、そうじゃない。まあ、掛けて」
 「はい」
 「コレを見て欲しい」
俺は、高橋嬢のメモを見せた。
 「実はね、今度の仕事で、君に是非やって欲しい仕事があるんだ」
 「はぁ・・・どんな?」
 「部内秘書。珠樹君のやっていた仕事だ。会社側としては廃止した制度だが、今回のプロジェクトでは、部内秘書が欲しい。家田統括部長に了解済みだ。誰が良いか決めかねていたが、そのメモにあるように、君を強く推薦してくれた人がいてね。君の仕事振りを高く評価してくれた。どうだろうか、引き受けてくれないか?」
 「それは、私にSEの素養がなと言うことなのでしょうか?」
と、不安そうに聞いた。
 「いや、違う。SEとしての専門知識があって初めて、この仕事が出来る。俺はそう思っている。確かに雑用になってしまうかも知れない。しかし、顧客からのクレーム、フィールド部門からの質問に正確に答えられなくてはならないと思う。そのためには、しっかりしたSEとしての素養のある人間で無ければならないと思う。そう言う意味から言って、神保君、君が適任だとね」
 「そうですか」
 「誤解しないで欲しい。君を推薦してくれた人間は、最初、自分がやろうと言ってくれた。それを俺が断った。君に代わる、確かな人材を育てないと、君も駄目になると言ってね。だから、俺は、神保君、君に期待して部内秘書を任せたい。前々から、君の仕事の正確さには感心していた。君の書類にはミスがない」
 「高橋先輩でしょう、私を推薦したのは。字を見れば解ります」
 「そうか、解るかやっぱり」
 「ええ」
 「即答が無理なら、考える時間を取るよ」
 「いいえ、是非させて下さい。お引き受けします」
 「ありがとう」
 「実は、高橋先輩には、良くしてもらっていますし、私、高橋先輩に憧れています。素敵な女性でしょう。私にはない所が沢山あって、見習わなくちゃなぁと思っています。その、高橋先輩からの推薦とあっては、引き受けなくちゃ勿体なですよ、ねぇチーフ」
 「そうだな。それじゃあ、緊急チーム会を開いて、このことを伝える。社内にいる人間に声を掛けてきてくれ。俺は此処で待っている」
 「わかりました」
三々五々、会議室に人が集まった。俺は、その間に、伝達こと項を纏め部内秘書の件を話した。
by karura1204 | 2004-12-01 01:45 | 第三章 黒点
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