俺はルカに『どういうつもりだ?』と言おうとしたが、ルカが先手を打った。 「私、上手くやったでしょう。純の恋人に見えたよね」 「頼んでないぞ」 「言うと思った」 「ん?」 「頼んでないぞって言うと思ったの。でも、私の純に対するお礼の気持ち。何処の誰だか解らない私を拾ってくれたし、我侭にも付き合ってくれた。それに、涙が乾くまで抱きしめてくれたでしょう。そのお礼」 「礼が欲しくてやったんじゃないぞ。俺はただ、俺がそうしたくてやったんだ、そんな・・・」 「ねぇ、小田原まで行って蒲鉾買って帰りませんか?明日はもう仕事でしょう」 俺は、ルカの顔を見た。その顔は、無邪気に笑っている。 「ああ、そうだな。そうしよう」 俺は、何を言っても無駄な気がして、ルカの意見に従った。そして、心を切り替え、この幸運に自分の気持ちを乗せて今日を楽しもうと決めた。 今日のルカは黙り込む事もなく、はしゃいでいる。俺は、ほっとしていた。 小田原に着くと、俺たちは、食べ切れない程の蒲鉾を買い込んだ。鯵、秋刀魚、鰈等の干物に貝類や瓶詰めまで買った。一週間は食材には困らないだろう。魚介類三昧の一週間だ。 買い物をしている時のルカは、また別人だなと思う。店のオヤジに上手い口調で値切って行く。親父もルカの口車に乗せられたのか、表情に乗せられたのか、値を下げてゆく。車に戻ってその事を言うと、 「向こうじゃ当たり前よ。値切らない方がおかしいわ」 と事も無げに言ってのけた。 その後、ランチは、帰り道、名前と雰囲気に惹かれステーキの店に入った。ルカはよく食べる。気持ちの良い食べっぷりだ。なのに、細い。 「なあ、体型を維持するのに何かしているのか?」 「何もしていなわ。元々、身体を動かす事が好きだし、それに、褐色何とかって言う細胞が人より多いみたいで、効率良く脂肪を燃焼させているらしいわ」 「便利な身体だな」 「そうね」 と、笑った。 「そうだ、ルカ、洋服買わなきゃ。着替えがないと不便だろう」 「ええ、そうね。困るわね」 「何か好きなもの買ってやるよ」 「嬉しいわ、ありがとう。でも、良いわ、自分で買う。悪いもの、それに純に買ってもらう筋合いはないし・・・・」 「バ~カ、全部俺が買うとは言ってないぞ。お前が一番気に入ったものを一枚買ってやる。似合う奴な」 「ありがとう。でも、本当に良いの?」 「ああ、俺が良いって言っているんだ、受け取れよ、な」 「ありがとう」 「礼は言うな。俺の方が礼を言いたいくらいなんだ」 「何で?」 「さあ、何でなんだろうな。そうと決まれば早く食っちまおうぜ」 「ええ」 それから黙々と食べた。腹を満たし、店をあとにした。 「何処で買うか?って言ってもルカは海外にいたんじゃ分からないよな」 「何処でも良いわ。向こうにいた頃だって、市場みたいな所で安いのを買っていたの。所謂フリマとかガレージセールよ」 「じゃあ、安心だ」 俺たちは笑いあっていた。 俺はこうして笑い合える人が隣にいる事に感謝していた。会社に入ってからは苦味を噛み潰した顔で仕事をしていた。その姿勢は崩れないだろう。しかし、今までとは明らかに違う気持ちでいられるのだろうと思うのだ。それも、このルカと名乗る女が俺にもたらしてくれたのだ。 俺は、一気に家の近くまで車を飛ばした。此処なら、駅ビルが3つあって便利だし、今流行の量販店もあった。駅の駐車場に入れると、ルカに 「此処は値切れない、その代わりセールをやっているし、店によっては纏めると安くなる」 と教え、値切らない事を約束させた。 3つの駅ビルを一つずつ見て行く。歩くのも大変だなと思ったが、苦もなく歩いてゆくルカの後をゆっくり付いて行った。 ルカは、瞳を輝かせ、店を見て行く。その姿はどう見ても30と言うイメージからは程遠かった。渋谷辺りを歩いている少女と変わらない気がした。 全ての店を丹念に見終わった後、ここぞと思った店に逆戻りして行く。買う順番を決めていたかのように、効率よく回り、ジーンズから帽子・下着に至るまで気に入った物を買っていった。いずれもセール品で500円・1000円・2000円といった感じで、買い物が上手いと感心した。いつの間にか両手の荷物は膨れ上がった。 「俺が持つよ」 ルカの手から袋を受け取ると、小さな袋は、大きな方へ入れた。 「ありがとう」 「まだ、買うの?」 「ええ、後一軒」 ルカはすまなそうに、両手を胸の前で合わせた。 「荷物、車に置いてきて良いかな?」 「あ、ごめんね。お願いするわ。改札の所にあった、ファーストフードの前で待っているわ」 「はいはい、お姫様」 俺は、駐車場に荷物を置くと、ルカの所に戻った。 「お待たせ、で、何処へ行くのかな」 「こっち」 ルカは俺の腕を取り、ずんずん歩いてゆく。東口側の駅ビルの一軒のお店だった。ルカは俺の手を離すと決めてあったようなワンピースを何着か手に持って、鏡の前で当て始めた。そこに俺がいるのさえ忘れ、何度も同じ動作を繰り返す。尊が、女の買い物は長くて嫌だと愚痴を零していたが、確かに長いと感じた。イキナリ、 「ねぇ、純どれが良い?」 ルカが声を掛けた。 「え?」 ふいを突かれ戸惑っていると、 「この中で、どれが良いかしら?純、あなたにプレゼントしてもらうの」 俺はその時初めて服をみた。どれも夏らしい色の、涼しそうなものだった。 「試着してみれば?見ているだけじゃ解らないと思うよ」 「そうね」 ルカは、店員に何か言って試着室に入って行った。俺は、その前で待つ。着替えたルカが出てくる。それを何度か繰り返した。どれもルカに似合っている。ルカと言う女の魅力を充分に引き出していた。服に負けていない。逆に、服を着こなしている。俺もどれが良いのか決めかね迷った。ルカとしては、全部欲しいのだろうと思った。俺は、思わず 「ルカ、全部買ってやるよ」 と言っていた。ルカの瞳が輝く。 「本当?」 「ああ、良いよ」 「でも、一枚だけでしょう?」 「俺、そんな事言ったか?」 「ええ」 「じゃあ、前言撤回。ルカに一番似合っている服だから、全部OKだよ」 俺はまたしても、柄にもない事を言った。「貸して」とルカから服を取ると俺はレジへ行き「プレゼントにして下さい」と頼んだ。合計で5千円強。ルカの為ならこれくらい安いものだと思った。 レジでメンバーズカードと言うポイントの溜まるカードをわざわざ作ってくれた。最近、この手のものが大流行で、街のスーパーからネット上に至るまで、ポイントがつく。ネットはまだしも、店で買ってまでカードをくれると、財布がかさばってしまう。普段は貰わないのだが、ルカにやれば良いと思って、作ってもらった。 そして俺は、ルカが負担にならない理由を考えていた。一枚と言った服が増えた。俺はルカが喜ぶ顔が見たいだけなのだが、ルカは気にするに違いない。 「ルカ、帰ろうか。夕飯作らなきゃならないからな。それとも、もう少し何か見て行くか?夕飯、此処で食べたって良いんだ」 「ううん、帰りましょう。私も、ちょっと疲れたわ」 「わかったよ」 ■
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by karura1204
| 2004-12-01 02:02
| 第一章 夏の嵐
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